想いが籠ったお弁当｜リアクション

想いが籠ったお弁当

　深夜に近い時間帯、グレーのスーツを着た深倉理紗子が家に帰ってきた。ショートの髪は少し乱れていた。緑の目は心底、疲れたかのように憂いを帯びている。項垂れた姿でドアの鍵を開けて中に入った。
　玄関で履いていた黒いパンプスを脱ぎ散らかし、薄暗い通路の壁に肩を当てながら奥の部屋へと向かう。ベッドを目にした瞬間、持っていた鞄を床に無造作に置いた。反動で真横に倒れて中身が飛び出す。
「どうでもいいわ」
　理紗子はベッドに倒れ込んだ。近くにあった枕を引き寄せて顔に押し当てる。肩が微かに上下して啜り泣きが聞こえてきた。
「医者だからって……なんで……わたしにばかり……もう、疲れたよ……」
　弱音はしばらく続いて、やがて安らかな寝息へと変わっていった。

　目覚めは突然であった。はい、と理紗子は勢いのある返事をした。目を瞬かせて床にあったケータイを慌てて拾い上げる。
「……なにも鳴ってないよ」
　だらりと手を下げてケータイを元の床に戻した。
「折角の休日なのに」
　瞼は閉じようとした。その時、目が気付いた。倒れた鞄の中から一枚の紙が食み出していた。仄暗い中で『ピクニック』の文字が辛うじて読める。
　理紗子は上体を起こした。ベッドの縁に座って鞄の紙を引っ張り出した。
「病院のロビーのチラシね」
　理紗子は立ち上がる。スーツの上着を脱いで袖を捲った。
「変化も必要よね」
　気分を一新して弁当作りが始まった。出だしで色々と考えて定番のおにぎりに行き着く。海苔を巻いたシンプルな状態から想像を膨らませて閃いた。
　理紗子は下準備に三種類のそぼろを作った。牛肉は茶色、鮭はほんのりと赤く、淡い黄色の卵をご飯に塗して俵型に握った。三色おにぎりの完成である。
「ちょっと寂しいわね」
　冷蔵庫の中身と相談してタコウィンナーと唐揚げを作った。ニンジンとアスパラガスは軽く茹でる。缶詰のコーンとツナを適当に塗してサラダにした。味見はしないので品数の割には早くに出来上がった。
「お弁当らしくなったわ」
　浮かべた明るい表情は、自分しか食べないのに、と呟くことで自嘲へと変わった。

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