想いが籠ったお弁当｜リアクション

想いが籠ったお弁当

　桜花寮に向かう道を荒海藤吾は一人で歩いていた。左肩に掛けた鞄が小さく見える。獣のような灰色の髪を粗雑に後方に流し、厳しい表情は他者を容赦なく威圧した。出くわした人々は怯えた表情で隅に寄る。
　藤吾は堂々と道の真ん中を歩いた。
　その背中を目指すかのように小倉杏子が走る。黒い軍帽は荒々しさの象徴なのか。左頬には大きめのガーゼが貼られていた。白くて長いポニーテールは巻き起こる風で激しく動く。
「荒海さん、待つでありますっ！」
「あ、なんだ？」
　藤吾は鋭い眼付きで振り返る。杏子を目にした途端、若干、険しさが薄れた。

　追い付いた杏子は輝く緑の瞳で、直ちに右手を掲げ、敬礼の構えを取った。
「カフェテリアでピクニックのチラシを見つけたであります！」
「それが俺と関係あるのか」
　無愛想に返す藤吾に杏子は、えっと、と言葉に詰まる。軽く頭を振って背筋を伸ばした。
「私と一緒に行くでありますっ！　きっと元気が出るでありますっ！」
　少し赤い顔で言い切った。藤吾は口を噤んだ。何かを思案するような顔付きに、あ、あの～、と杏子は不安な声を漏らす。
「……そうだな、行くか」
「そうでありますか、では今度の機会に……行くでありますかっ！？」
「なんで驚くんだ？　小倉が誘ったんだろ」
「そ、そうであります！　驚いた私に驚いたでありますっ！」
　泣き笑いの表情になる杏子であった。

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