撮影隊がやって来た！｜リアクション

撮影隊がやって来た！

【８】お勧めは、猫鳴館
　撤収作業も終わり、一同は再び寝子高の裏手に向かって下り始めた。
　その途中のこと。
「あの……撮影場所に推薦したい建物があるんだが……」
　機材を肩に担いで黙々と道を下っていた士が、つと前島に近づいて言った。
「どんな建物だい？」
　前島が足を止めてふり返る。
「猫鳴館といって、寝子高の寮なんだが……建物は古くて、たぶん知らない人が見ると、廃屋のように見えると思う。本館は和風の建物だが、裏に洋館もあるので、和洋どちらでも必要な方を使えるだろう。中もボロボロだから、サスペンスものの撮影にはうってつけじゃないかと思う」
「寝子島高校の寮は、桜花寮と星ヶ丘寮の二つだけと聞いていたけれど、もう一つあったのかい？」
　前島は、軽く眉をひそめて問い返した。
「それは……」
「諸般の事情で、公式にはそういうことになっているのだ」
　言い淀む士に、横から真央が助け船を出した。
「ふうん。でもねぇ……」
　眉をひそめたまま何か言いかける前島に、真央は素早く自分のデジカメを取り出す。
「たしか、前に撮った画像が残っているはずなのだ。これを見れば、士ちゃんの言うことが嘘じゃないと、すぐにわかるのだ」
　言って、デジカメのデータを探していたが、ほどなく「あったのだ！」と叫んで、それを前島の方へと差し出した。
「ほう……。これは……」
　画像を見るなり、前島の表情が変わる。
「これは、最近のものかい？」
「そうなのだ。入寮した時、撮ったのだ」
　うなずく真央に、前島は軽く目を見張った。
「君、ここに住んでるの？」
「はいなのだ」
「俺も、ここの住人だ」
「私も、住んでます」
　うなずく真央に、士と綾花も声をそろえた。
　いつの間にか一同は立ち止まり、彼らの会話に耳を傾ける格好になっていたのだった。
「他にも、住んでいる生徒はいるの？」
「ああ」
　士がうなずく。
「ふうん」
　言って、前島は改めてデジカメの画像をまじまじと見やった。が、やがて顔を上げる。
「わかった。とりあえず、その建物を見てみよう。ここから近いのかな？」
「ああ。そこの森の中だ」
　士が近くに見える森を示した。
　前島はそれへうなずくと、他の者たちには先に寝子高前に戻るよう言って、士に案内を頼む。
「真央ちゃんも一緒に行くのだ」
「私も行きます」
　真央と綾花が、同行を申し出る。
　そのまま彼らは、士を先頭にして猫鳴館へと向かった。
　寝子高へと続く道をそれ、森の中を歩くことしばし。ほどなく、猫鳴館の見るからに廃屋めいた建物が現れた。
「ほう……」
　実物を前に、前島が小さな声を上げる。
　三人に案内されて、ぐるりと外側を見て回り、前島はすっかり猫鳴館に興味を持ったようだ。旧市街で撮影を行っている島崎に電話を入れる。猫鳴館のことを話し、自分のスマホで撮った写真をメールで送った。
　その写真は、島崎の興味をも惹いたようだ。
「監督が、中の写真も送ってほしいと言ってるんだが、入らせてもらってもいいかな」
「ああ、むろんだ」
　士はうなずき、先に立って建物の中へと入って行く。
　管理室や自治会会議室などを案内し、更に一階の奥の渡り廊下でつながっている洋館の方も案内して回る。
　真央と綾花も同行し、「そこは、触ると危険なのだ」とか「足元、注意して下さい」などと注釈を入れる。
　それに従いながら、前島はいくつか写真を撮って、再びメールで島崎に送った。
　ややあって、彼のスマホに着信があった。相手はむろん、島崎だ。
「……はい。……はい。……わかりました」
　しばらく話してから通話を切ると、彼は士たち三人をふり返る。
「監督のOKが出たよ。午後の撮影には、ここを使わせてもらうことになった」
「士ちゃん、がんばった甲斐があったのだ」
「よかったですね」
　思わず笑顔になる士に、真央と綾花が声をかけた。
　その三人に、前島が続ける。
「それで、ここの管理人なりなんなりに、撮影のことを話す必要があるんだが……」
「それは問題ない」
　言ったのは、士だ。
「ここの運営は自治会に任されている。そして、現在の自治会長は、俺だからな」
「……なるほど、それでここを勧めたんだね」
　軽く目を見張ったあと、前島は笑って肩をすくめた。
「わかった。……じゃあ、そろそろ戻ろうか」
　言って、前島は踵を返す。
　そのあとについて歩き出しながら、士は真央と綾花を振り返った。
「後木、綾辻、ありがとう」
「どういたしましてなのだ」
「私たちも、猫鳴館の住人ですから」
　礼を言う彼に、真央と綾花は笑って返すのだった。

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撮影隊がやって来た！

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