グッドモーニング・ハグハグ☆｜リアクション

グッドモーニング・ハグハグ☆

●ハグに踊らされた被害者

　南戸河蔵人は、せっかく来たんだ、いろんな人と話をしてみようと生徒達に声をかけた。
「そこの君、私の小説、読んだことある？」
「おじさん、小説家？」
「私はまだ20代だよ。まあ、いいか。南戸河蔵人っていうんだけど、知らないかな？」
　声をかけられた生徒は、寝子島を題材にしたエッセイを読んだことがあると答えた。
「そっちのほうか……」
　以前、寝子島探索を浅井先生と彼の知人に協力してもらい、それを元にしたエッセイを書いたことがある。
「いやいや、私の作品を読んでくれて嬉しいよ。小説のほうも読んでね」

　取材中、校内の見回りをしている浅井先生と高野先生を見かけたので声をかけた。
「あれ、高野君？　君も浅井君と同じ学校の先生だったんだ。こりゃ奇遇だね」
　浅井先生の知人というのは、たまたま一緒にいた高野先生だった。
　高野先生と浅井先生には寝子島名所を案内してもらったり、名物を食べたりと、取材でいろいろ世話になったことがきっかけで知り合いに。
「南戸河、何をしにきたんだ？」
「うんうん、新作の取材でね。いろんな生徒さん達と話をしてね、今時の子が何をしていて、何に関心を示しているのか直接聞こうと」
　感謝の気持ちを学園小説をしようと言おうとした時、後ろからいきなり誰かが抱きついてきた。
「クマさんみたいなおじさん……抱き心地いい……」
「おじさん？　ひどいなあ、私はまだ20代だよ」
　クマさんみたい、はいいが、おじさんと言われるのはちょっと……。
「おじさん、小説家の南戸河蔵人先生？」
「ああ、そうだよ」
「私、南戸河先生の冒険小説読んだことあるよ。面白かったー。恋愛小説は書かないの？」
　そう言って、カバー付きの本を差し出す。どのような本かわからないが、おそらく恋愛小説だろう。
　抱きつかれながらもニコニコ笑顔で女子生徒と話す蔵人だったが、高野先生の突き刺さるような視線を感じて話を中断した。

「南戸河、うちの生徒に何をしている」
　怒鳴りそうな高野先生に危機を察した浅井先生は、ダッシュで彼女の側を離れた。
「ち、違う！　この子から来たんだ！　私は断じて変態ではない！　仮に変態だったとしても変態と言う名の愛の伝道師だ！」
　その言葉を聞いた女子生徒は「私を弄ぼうとしたのね、ひどい！」と泣きだし、ハグを解き、蔵人をおもいっきり突き飛ばした。
「この通り！　私は、男女問わずに愛と勇気と希望を伝えるために小説を書いているんだ！」
　尻餅をついたまま、突き飛ばされた拍子で落とした鞄に入っていた本を一冊手にし、高野先生に差し出す。
　受け取ったカバー付きの本をパラパラとめくって読んでいた高野先生が顔を赤らめたので、どうしたんだ？　と不思議がる。
「愛は伝わっているが、男同士でか？　こんなものを書いていたとは意外だ」
「え！？」
　素早く立ち上がり、本をひったくって内容をざっと確認。
　そこに書かれていたのは……眼鏡をかけたインテリ高校教師とショタ男子生徒のＢＬ。
　作者名を良く見ると、自分の名前ではない。
（何で……って、あの時！）
　先ほど抱きついた女子生徒が持っていた本が、突き飛ばされた衝撃で落とした鞄の中に入っていた本の中に紛れ込んでしまったのだろう。

　これしかない！　と蔵人は、高野先生にハグして謝罪することに。
「私はそんなものは書かない！　これはさっきの子の……」
「言い訳無用！」
　高野先生の鉄拳が蔵人の顔面にクリーンヒット！
「大丈夫ですか？」
　こっそり様子を見ていた浅井先生が駆け寄って来たので、私を慰めてくれ！　と蔵人は抱きついた。
「俺にハグしないでください！　離してください！」
　どうしてこんな目に……と思うと、浅井先生は情けなくなってきた。

　蔵人だが、ハグしていたところを用務員のおじさんに見られたうえ、引き離されて校外に連れ出された。