グッドモーニング・ハグハグ☆｜リアクション

グッドモーニング・ハグハグ☆

●導かれたアラサーふたり

　神魂の影響でハグしてほわ～ん、な状態が続く寝子高に、CDショップ『Pioggia d'aprile』の店長の樹雨蓮太朗が訪れた。
　開店準備をすべく自分の店に行く途中だったのだが、神魂の影響を受け、導かれるように寝子高に来たのだ。
（馴染みの息子さんが通う学校がどんな感じか気にはなっていたけど……何故、僕はここに来たんだろうね）
　そう思ったが、せっかく来たので学校内を見ていくことに。
　正門から校内に入ると、ハグしている生徒が何人か。
「やたら抱擁している姿を見るね。いやはや……若い子達はけっこう大胆だな」
　ぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめているようにハグしている女子生徒もいれば、イチャイチャしている恋人同士な生徒も。
（……？　僕も誰かに……）
　34歳の自分が高校生にハグしたら犯罪になるのでは？　とハグしたいという気持ちを抑える。
「君、何をしているんだい？」
　思いとどまっている蓮太朗に話しかけたのは、次回作は学園ものにしようと思いつき、寝子高に取材に来た小説家の南戸河蔵人。
　取材先を寝子高を選んだのは、彼の姪がここに通っているからだ。
「学生さんは活気があっていいね……こりゃ、いろいろとイメージも沸いてきそうだ」
「君は……」
「いきなり声をかけてすまなかったね。私は南戸河蔵人。冒険小説を書いたり、童話を書いたりしている小説家で、ここには次回作の取材時来たんだ」
「作家さんでしたか。この様子を見て、どう思いますか？」
　蓮太朗にそう言われたので、ハグしている生徒達を見ながら蔵人は「若い子はいいね」と答えた。
　同感です、と蓮太朗も寝子高の様子を見る。
　ティーンエイジャーの行動を羨ましがるアラサー男性ふたりだった。

「まあ、ハグもいいものだけど、セクハラはいかんよね」
　ハグしたい気持ちが芽生える蔵人に対し、蓮太朗は冷静に見ている。
「それにしても、今日はどうにも……人の温もりを感じたいし、私の愛を伝えたい気分だね」
　愛情を確かめ合うことが遠慮なくできる間柄というのは、すぐに築けるものではない。
　ハグというものは親愛の証。蔵人はそう考えている。
（ま、仲良くなるってのは、私にとってそう難しいとも思わないけれど）
　
　寝子高生達の様子をしばらく見ていたが、用務員のおじさんに見つかり、ふたりは声をかけられた。
「あの……私は不審者ではありませんから」
　30代大人の余裕と物腰の柔らかさで、ここに通う生徒に会いに来たと説明する蓮太朗。
「生徒の保護者か。用があるなら、職員室のほうに行ってくれ。不審者扱いしてすまなかった」
「構いませんよ、勘違いされる私も悪いのですから。では、失礼します」
　咄嗟に言った嘘とはいえ、こう言われてしまっては職員室に行くしかないと割り切った蓮太朗は校内へ。

　蔵人は「ここに取材に来たんです」と説明するも、おじさんは疑いの眼差しで見ている。
　その時、校内を巡回していたの浅井先生が蔵人を見かけ、助け舟を出してくれた。
「南戸河さんじゃないですか。取材に来たんですか？」
「浅井先生のお知り合いですか？」
「ええ、まあ。小説家をしている方なんです。俺で良ければ、学校を案内しますよ」
　浅井先生のおかげで、蔵人は、用務員の疑惑から逃れることができた。
「助かったよ、浅井君。君、授業はいいのかい？」
「次はどのクラスも体育はありませんから。念のためお伺いしますけど、本当に取材に来たんですか？」
「もちろん。次回作の取材にね。学園ものを書こうと思って」
　このふたり、蔵人が以前寝子島に初めて来た時に知り合い、いろいろと案内してもらったのを機に知り合いに。
「ハグしている生徒が多いようだけど、どうしてだい？」
「俺にもわかりません。授業をサボってハグしている生徒が多いので困ったものです」