究極のカレーを求めて｜リアクション

究極のカレーを求めて

■普段と変わらない放課後？
　普段と変わらない放課後のはずだった。
　錦織彩はいつものように、家庭科室の隣にある被服室で家庭科同好会の活動を行っていた。
　鼻を擽るのは、どこかスパイシーな香り。
（おかしいなぁ…今日は調理系の部活、残ってましたっけ…？）
　そんなことを考えながら、ひょいと家庭科室を覗いてみる。
　すると、猫のような目と視線が合ってしまった。
「どうしたの？　あ、もしかして、手伝ってくれるとか？」
　人懐っこい笑みを浮かべながら、野々ののこは身を引いて家庭科室の中を手で指し示す。どうやら、匂いの元は家庭科室に置かれた鍋らしい。

「じゃあ、入って入って。今ね、丁度第一陣が出来たところなの」
「えっ、あの、う、あのぉ……」
　怯える彩の態度もなんのその、いささか強引に、手を引いて家庭科室へ連れ込んだ。何の手伝いなのかも知らされていないが、中に白沢先生がいると知って多少ほっとしたように胸を撫で下ろす彩。
「適当なところに座ってて。あ、カレー作っててもいいよ！」
　そんなことを言いながら、ののこは次のターゲットを探している。
　こうして、彩は家庭科室へ引きずりこまれたのだった。

　同じく。普段と変わらない放課後のはずだった。
　図書室でシトラス・ガムダンの哲学書を読んでいた朝鳥さゆるは図書室にまで漂うカレーの香りに鼻を鳴らす。
　パタン、と静かに本を閉じてやってきたのは家庭科室。図書室よりも色濃い香りが、ここが発信源だと告げている。
「ようこそ！　究極のカレーを求める会へ！」
　人の気配を感じて飛び出してきたのんきなののこの発言はさゆるに向けられたものだろう、満面の笑みで家庭科室の中を指している。
　断る理由も別にない、こうしてさゆるは暇つぶしのために家庭科室へ足を踏み入れたのだった。

　持ち前の人懐っこさから、次々と人を呼び込むののこ。
　家庭科室の前をふと通りがかっただけの生徒もターゲットの一人である。究極のカレーとは、興味のない人間をも魅了するものでなくてはならない。
「俺はこれから新聞部の部活が…」
「じゃあ、究極のカレーを取材したらどうかな？　入って入って！」
　八神修も被害者の一人である。部室に向かおうとしていたところを、クラスメイトのののこに見つかり、今まさに引きずりこまれようとしている。
　「分かった、部室の鍵だけ開けてくるから、俺の分もよろしくな」
　ののこの攻撃にたまらず参加を了承した修は、ののこに見送られて一旦部室へと向かった。

■究極のカレーを作る会、始動！
　家庭科室はいつにない賑わいを見せていた。
　たまたま集まった非公式新聞部の面々は、これを記事にしないわけにはいかないと意気込んでいる。
「ふむふむ、究極のカレーを作っているんですね。ちょっと取材させて貰ってもいいですか？」
　常に持ち歩いているメモ帳を手にしながら、白沢先生に許可を求めているのは音無文。
「究極のカレーが生み出される瞬間に期待だねー。音無くん、カールシュテインくん、取材いっくよー」
　カメラを構えながら取材に対する意気込みを見せているのは三ヶ島葵。
「じゃあ、文さんがインタビュー係で、葵さんが撮影係でー……私は試食係でイイカナ？ダメカナー？」
　お腹空いたし、と小声で付け足して二人の様子を窺い見ているのは結梨亜・カールシュテイン。
　非公式新聞部に所属する三人は、早速取材対象を探して教室内を見回した。

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