怪人セブンの断罪｜リアクション

怪人セブンの断罪

【木曜日：放課後　299カフェ】

　橘敦志が獅子尾優華のいる１年２組の教室にやってきた。
「よかった、獅子尾。まだ学校に残っててくれて！　獅子尾、スマホを持ってないから擦れ違いにならないかヒヤヒヤしたぜ」
　安堵の表情の橘に、獅子尾は首を傾げる。
「はぁ、電子機器類はどうしても不慣れでして。それで、私に何か……？」
　すると橘はにかっと笑って胸を張る。
「これから299カフェでののこを守る決起集会やるから、あとで来いよ！」
　じゃっ、と立ち去ろうとする橘の腕を咄嗟に獅子尾は掴んだ。
「この島には今、殺人鬼が潜んでいます。一人で行動するのは危険かと。私も同行します、橘先輩」
　自分たちも断罪対象であり、平日でも相手は襲ってくるかもしれないという懸念が彼女をそうさせた。
　これに橘は納得したようで、獅子尾に歩調を合わせる気遣いを見せる。
「そうだな。どこからセブンが来るか分からない。獅子尾の意見はもっともだな」
「ええ、用心するに越したことはありません」
　濃紫のケープを羽織ると、どことなく上流階級特有の毅然さが薫る獅子尾。
　背筋を伸ばし、彼女は迷い淀むことなく橘に言った。
「参りましょう。私たちがフツウを守るために」

　299カフェにて。
　桜井ラッセルにベイクドチーズケーキと299ラテのケーキセットが運ばれてきた。
「俺の注文分が最後だな。それじゃ、ののこ護衛班の任務の無事遂行を願って！」
「「乾杯！」」
　グラスの代わりにカップをテーブルの中心でぶつけ合う。
　この場にいるのは４人。
　前回参加者、橘敦志。
　橘の異変にいち早く気が付いた桜井ラッセル。
　風紀委員の後輩にあたる獅子尾優華。
　そして、赤い似非ヒーロー、あらこめレッドこと新井米太郎。
「……何であなたがいるの？」
　米太郎に冷たい眼差しを向ける獅子尾。
　視線恐怖症の米太郎は思わず顔を伏せてしまう。
「酷いよ、獅子尾さん！　確かに脈絡なく僕、ここにいるけどさ！　僕だって怪人セブンの話を霧切先輩から聞いたし、ののこが危ないって話だし、ヒーロー的に出動しないとでしょ！？」
　口ではこう言っているが、本心は霧切翠子にとってのフツウが壊されようとするこの事態を容認できなかったことが動機である。
　その腕には、霧切から受け取ったお守りのミサンガが巻かれている。
　桜井は米太郎の気持ちを汲み取ってフォローに回る。
「新井は普段は窓ガラス割ったり、残念な行動ばっかだけどさ、今回の新井はマジだぜ。……多分」
「多分は余計だよ、桜井君！？」
　思わず立ち上がり抗議しだす米太郎。
「僕は今回、本当に怒ってるんだ！　怪人セブンは絶対に許さない！」
「その意見には同意見です。セブン許すまじ！　奴にののこさんを指一本触れさせません！」
　獅子尾は意気込みながら、ザクッとフォークで苺を真っ二つに割る。
　果汁が滴る血のように皿を赤く染めていく。
　橘はモカコーヒーの香りを楽しみながら、３人へ提案してみた。
「ののこを守るために、俺は日曜日にみんなと勉強会をしたい。定期テストも近いしな。俺たちの勉強も捗って一石二鳥だ」
「いいですね。学生の本分は勉学ですし」
　獅子尾がハーブティをお代わりすれば、桜井は大好物のチーズケーキを口に運びながら数度頷いた。
「ん、みんなまとめて赤点脱出だな！　ＯＫ、その話、乗った！」
「僕は言わずもがな、だ」
　アップルパイとミルクティを注文した米太郎だが、一切手を付けずに会話に参加していた。
「（霧切先輩の）フツウを壊す存在を、僕は許さない。その為なら何でもやってやる」
　米太郎の発言に、獅子尾と桜井が目を丸くする。
「あなた……、何処かで頭を打ってきたのかしら？」
「おい、新井。具合悪いのか？」
「何で僕がシリアスキャラになると、心配されるのかな！？」
　ショックを受ける米太郎に対し、橘が「……ケーキ、奢るぜ」と慰めるのであった。