２人と入れ替わりにやって来たのは、あさひとあいらだった。るちるは長い時間が掛かりそう、と考え「後から迎えに行く」と言って出かけしまった。どこへ行ったかは後から紹介するとし、今はこちらに集中しよう。
「おおっ、ここが神野文房具店かぁ！　和風だがレトロ感がよいな……」
　目を輝かせるあいらに、あさひは何気なく問いかける。
「あさひは、出来上がった写真をいれるための袋を探しているの。あいらちゃんは？」
　夏休みの終わりにとある中学生の家に集まって宿題をした。その時の写真が出来上がったから……とあさひは笑う。
「あたしか？　あたし定規が欲しいんだ。丸とか三角とか綺麗に書けるやつだ」
　そういいながら、あいらは辺りを見渡す。今、いる場所には２人の欲しい物は無い。どこにあるのだろう、と探していると
「探し物かい？」
　丁度いいタイミングでマキナが現れる。
「こんにちは、マキナお姉さん！　あのね、写真を入れれるかわいいふくろないかなぁ？」
　あさひが早速問いかけると、マキナは「こっちだよ」と案内してくれた。レターセットや便箋と共に愛らしい封筒が置かれており、サイズも量もさまざまだった。
「わぁ！　かわいい猫ちゃんの封筒があるっ♪」
「本当だ……。そうだ、定規はどこだ？」
　今度はあいらがマキナに「丸とか三角とか綺麗に書ける定規はどこだ？」問いかける。
「あぁ、テンプレート定規だね。それだったらこっちだよ」
　と、マキナはあいらを封筒の棚の裏へ連れて行く。そこにはテンプレート定規が色々と揃っていた。その他分度器やメジャー、ノギスなどが揃っている。
（予算は３００円……。これなら買えそうだ）
　その中で使いやすそうな物を見つけ、手に取ると値段も手ごろだったのでそれを買うことにした。あさひを見れば彼女もまた愛らしい封筒を手にしている。２人はマキナに礼をいい、互いに良いものが手に入った、と顔を見合わせて笑い合った。
「えへへ♪　また明日からも一杯遊んで勉強も頑張るよ！」
「そうだな……！」
　あさひとあいらは嬉しそうに笑う。マキナはそんな笑顔に幸せを感じていた。

　そろそろ約束の時間だ、とあいらは店の外で姉・るちるの姿を探す。しかし、そこにいたのはリボンが似合う黒髪の少女だった。学校帰りの浅山 小淋はどこか似たような雰囲気の少女を見、にっこり笑った。
「あいらちゃんのお姉さん？」
「いいや、こんなに穏やかな人じゃない」
　あさひの問いに首を振ると、小淋がすらすらとスケッチブックに何かを書く。
『こんにちは。誰かを探しているのですか？』
　問いかけに、あいらは頷き、姉が迎えに来るはずだったのだが……、と事情を説明した。すると何かを納得したのか、小淋は優しく笑った。
『もしかしたら、ケバブ屋さんの方に行ったかもしれませんね。途中、貴方に似た方とぶつかってしまって……』
　あいらは、うっすらと顔が赤くなるのを憶えつつもマキナに「ありがとう。また来る」と言って歩き出した。場所はなんとなくわかる。ならば、自分から行ってしまおう。草考えて。

【新しいスケッチブックとメモ帳を買っておきましょう】
　小淋は小学生の２人を見送った後、店の中へ入った。そして、持ちやすそうなスケッチブックとメモ帳を選ぶとレジへ持っていく。
「よかったら、どうだい？　サービスだよ」
『どれも美味しそうですね』
　マキナに勧められたお菓子を見て、小淋が感嘆の息を吐く。暫く迷った後、彼女が選んだのは『クリッキー』だった。
『ありがとうございます。では』
　小淋は一礼して外に出、桜花寮へと帰っていく。ゆっくりと傾く太陽に瞳を細め、静かに頷く。
【明日もまた、いい一日でありますように】


＊ケバブ屋での姉妹
　中々迎えに来ないるちるを迎えに行くため、あいらは道を行く。そして、案の定というべきか、るちるがケバブの店でアイスを食べているところだった。もちもちとしたドンドルマが伸びる様子を見てちょっと驚いたものの、すぐさま姉に駆け寄りアイスをひったくる。
「あ、あいら。どうして……」
「どうしてじゃない！　今、何時だと思っているんだ！」
　るちるはあいらの様子の意味を解り、時計を見る。約束の時間は大幅に過ぎており、真っ青な顔になっていくるちる。ごめん、と謝ればあいらは横目で伸びるドンドルマを見……、ちょっと恥ずかしそうにこう言った。
「ここまで1人でこらせたんだ。アイス、奢れよな」
「そうですねぇ……」
　それで手を打ちましょう、とるちるが財布を取り出したとき、あいらがどこと無く嬉しそうな顔をしている事に気がついた。
（欲しかった物が手に入ったのかな？）
　るちるはそれを声に出さず、代わりに「ドンドルマ買ってくる」と、言って屋台へと向かった。

＊牧場はチャレンジ精神が試される？
「ハイ、まもる。これから？」
「うん。今日からよろしくね」
　バニー・オークレイに声をかけられ、鎌八 まもるは頭を下げた。彼は今日からバニーの実家であるオークレイ牧場でアルバイトをする事になっていた。
「うさぎちゃん……中学生だったんだ？」
「そう、バニー中学生よ。制服、似合うでしょ？」
　勝手に彼女が高校生だと思い込んでいたまもるは目を丸くしたが、バニーは中学２年生である。くるっ、とターンしてみせる彼女に、まもるは「制服姿も似合う」と素直に思った。
　バニーはこれから買い物に出かけるという。まもるは気をつけて、と言えばバニーは嬉しそうに頷いた。
「しかし、ちょっと緊張するなぁ」
「ノープロブレム！　パパとママが色々教えてくれるわ。大丈夫よ」
　バニーに励まされ、まもるは頑張ろうと思った。

　牧場に到着し、早速着替える。
「かまやつです。宜しくお願いします」
「元気があって良いね！　早速仕事を始めようじゃないか」
　オーナーであるバニーの父親に案内され、最初は他の人と一緒に売店の掃除から始める。次にバニーの母親から商品の説明を受け、まもるは憶えようとメモを取る。
（種類が豊富だなぁ。間違えやすい商品もあるし……）
　憶える事が一杯だな、とメモを見返して力強くうなづいた。
　売店での研修の後は牛舎の掃除と馬のブラッシングを学ぶ。これはなかなか重労働で、まもるは額の汗を拭いながら「こんなに重労働だったんだ……」と感想を述べる。そんな彼にオーナーは肩を軽く叩き、豪快に笑っていた。ちゃんとやらないと馬に蹴られるのではないか、と言えば
「馬じゃなくて、バニーにキックされてしまうよ？」
　なんておどけて言われる。
（……あの子、そんなにじゃじゃ馬なんだな……）
　気をつけよう、と心に決めたまもるであった。それでも、この牧場での仕事が好きになり始めており、続けたいなと思っていた。

「まもる、調子はどう？」
「憶える事が一杯だけど、楽しいよ」
　買い物から帰ってきたバニーは、休憩中のまもると出くわす。彼女曰く、中々の重労働な為、短期間でやめてしまう人も多いとの事だが、まもるは楽しくて仕方が無い様子だった。ココアを渡しながら、バニーは言う。
「まもるは話しやすいし、このバイトを続けてくれると嬉しいな」
　そう言われ照れるまもる。何故だろう、ココアがとても甘く感じられた。
　暫くして、バニーは「牧場を全部見た？」と問い、まもるは首を振った。そこで彼女は１つ頷く。
「シルバー！」
　口笛を吹けば、バニーの愛馬が駆けて来る。慣れたさばきで馬に跨れば、まもるへと手を伸ばした。
「え？」
「カモン、まもる。前に乗せてあげる！」
　突然のことに面食らう。が、バニーに「怖い？」と問われて「ポニーテイルは大好きさ」なんて返すまもる。思わずくすくす笑ったバニーはウインクを１つした。
「そんなジョークが言えるなら大丈夫ね！」
　まもるは頷いて、バニーに手を貸してもらいながら馬に跨った。バニーは、いつか乗馬も教えるよ、と笑顔で言ってくれたのだった。