寝子島に長月の風吹いて｜リアクション

寝子島に長月の風吹いて

・高校の場合
　職員室には教職員が全員そろい、理事長も珍しくそこに居た。校長である雨宮草太郎がいつものほんわかスマイルで「チャオ♪」と挨拶していた。
「本日も、いつもどおり楽しく、がいいね。それじゃあ、行きましょうか？」
　校長はそれだけ言うと講堂へと向かった。

＊そして、始業式は始まって……
　校長の話が始まってどれだけたっただろうか。
「それで、シトラス・ガムダンはこうも言っています。出展は……」
　と草太郎はマイペースに話を続けている。栖来衣夢はツインテールにした白い髪を揺らし、不安げに壇上を見上げる。脳裏に浮かんだのは、一学期の終業式で起こった校長の話エンドレスというある意味地獄な展開……！
（長いわ。……長すぎる……！　またループしたりしないわよね？　しないわよね？）
　なんとなく辺りをちらり、と見る衣夢であったが、どうやらそれはないらしい。内心でほっ、とため息をつきつつも早く終わって欲しい、と願う衣夢。
　そして、ちょっと離れた体育科９組の列では、いつも元気な橘明里が少し表情を曇らせていた。
（うぅ、こうちょうせんせい、お話長いの……。途中で抜けだしておトイレにいきたいと思うけどセンセーの目をくぐらなきゃいけないの……）
　こんな時に閃いたのは「天使センサー」で、「あかりは天使だから……」と考えたのだが、ぽつり、と小さな声で
「って、あたしそんなの持ってないの……」
　と呟いてしょんぼり。トイレに行きたいのに行けない。行くにはどうするべきか。どんなルートを辿るべきか。いつのまにか、あかりの思考は「いかに先生の目をかいくぐってトイレへいくか」というゲームになってしまった。

　――ねぇ、シトラス・ガムダン！
　　　あかり、こういう時はどうしたらいいの？　教えて！！

　そう、心の中で問いかけても、シトラス・ガムダンは優しい笑顔で「がんばんなさいねぇー」としか答えなかった。

　その頃、５組の列と１組の列では必死に眠気と戦っている者達がいた。いや、彼ら以外にもいるかもしれないが、ともかく、この３人はその中でも強い眠気と孤独な戦いを強いられていたのである！！
（うーん、先生のお話ながいよぉ、眠たくなってきちゃったよぉ……）
　野々ののこが欠伸をかみ締めながらうつらうつらしている。その前では春山小枝もうつらうつら……というより、眠っていた。しかも妙によい姿勢で。因みに白目をむいていたか否かについては……口を閉ざしておこう。

　始業式開始前。
　小枝「ののこちゃん、もし……私、寝ちゃったら起してね？」
　ののこ「うん！　小枝ちゃんが寝ちゃったら起こすねっ！！」

　という風に言っていたのだが、始業式開始５分で小枝は陥落した。当初どうにかゆすって起こそうとしていたののこもまた同じようにうとうとし始める。
「あぅ、だめなの解ってるんだけど……きゃはぁ……」
　ついにののこまで立ったまま眠っていた。同時に……小枝のろっこん『ちいさきもののゆめ』（効果：周囲のランダムの小動物に意識が乗り移る。但し乗り移った対象に可能な行動しかとれない）が発動した。
　そんな事になっているとは露知らず、１組の方では御剣刀が眠そうに目をしぱしぱさせていた。
（またシトラス・ガムダンか……。いかん、眠たくなってくる……）
　宿題をぎりぎりまでやっていた刀の疲労感は残っている。風も心地よく、このまま眠ってしまいたい衝動に駆られるも、そういうわけにも行かない。丁度見回り中なのか生徒指導である吉田熊吉はいないものの、北風貴子を始めとする風紀委員が目を光らせているかもしれない。
（ここは、がんばって乗り切らなくちゃなっ）
　どうにかこうにか頬を軽く叩いて話を聞こうとする刀。けれどもやはりうとうとしてしまうのだった。

　その時、こっそりと講堂へ入ってくる者が１人。朝鳥さゆるである。彼女はスピーカーから聞こえる校長のありがたい話を耳にしつつ……我に返る。
（あ、自由課題のネタ……、そういえばシトラス・ガムダンについてだった）
　その人物について突っ込みを入れたレポートであり、後ほどこれを読んだ担任を初めとする教師陣が腹を抱えそろいも揃って大笑いしてしまうのだが、さゆるがそれを知るのは随分後の事である。
（まぁ、自分にしては良く掛けているかな。というより、ちゃんと宿題をしたという時点でも本当に驚きなのよね……）
　自分ではどうせ忘れてしまうだろう、と思い込んでいただけに何故この宿題をちゃんとこなせたのかが疑問であるが、どうでもよくなる。彼女は静かに２組の列の最後尾に並んだ。

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寝子島に長月の風吹いて

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