学校サボってどこいこう｜リアクション

学校サボってどこいこう

【昼休み（２）】

　塔尾松生はうずうずとしていた。
（早く今日発売の予約してたゲームを取りに行きたい……！）
　午前の授業中も、そのゲームがしたくて気が気ではなかった。
「もう駄目！　あたしには我慢できない！」
　昼休み、松生はついに痺れを切らしたように立ち上がった。
「ちょ、松生？　あんた、どーした――」
「ゴメン。あたし、早退する」
「え？」
　途惑うクラスメイト達をよそに松生は手短に帰り支度を整えると、昼休みの教室外へと飛び出していく。
（退屈な数学も、苦手な体育も。そして好きな歴史も待ちに待ったあのゲームには変えられないわ！）
　こうして、彼女のサボタージュはスタートする。

　数十分後。
「んっふっふー。予約特典のコードがついて、おまけに早期予約特典でお値段１０％ＯＦＦ。やっぱり買うならあのお店よねー♪」
　塔尾松生は御満悦の表情で、自宅への帰り道を歩いていた。
　その胸にはしっかりと購入したばかりのゲームが抱かれている。
「あとは食料をどっさり買い込んで寮に戻れば――うん、完璧よね」
　松生は夢見るような心地で秋の昼下がりの街並みを歩いていた。
（どうしてかしら？　今までもたまーにサボることはあったけど、なんだか今日は凄くわくわくする）
　松生は高鳴る胸の鼓動に、今日のサボタージュに何か運命めいたものを感じていた。
（先生には悪いけど、たまにはこういう時間も必要よね）
　松生は心の中で呟いた。
　と、そこで、彼女はぐぅと小さく腹の虫が鳴ったことに気がついた。
「そういえばまだお昼食べてなかったっけ……」
　少し頬を赤く染めて、松生はあたりを見まわした。
　幸いすぐ近くにコンビニがあるのを発見する。
　さらにその隣には小さな公園もあった。
「直ぐに帰ってゲームでもいいけど、ちょっとだけ公園によってお昼でも食べようかしら」
　松生は呟いて、そのコンビニに入った。
　どっさりお昼を買い込んで、松生は公園のベンチに腰を下ろす。
「うーん、いい気持ち。学校に行ってたらこういうお昼は出来ないわよね」
　惣菜パン、お茶、デザートのスイートポテトをゆっくりと味わいつつ、松生は秋の昼下がりを堪能していた。
「これでＢＧＭでもあれば最高よねぇ……」
　と、松生がゲーム好きならでは一言を漏らしたそのときだった。
「……え？」
　どこからともなくヴァイオリンの音色が聞こえてきたような気がした。
　松生は慌てて立ち上がるとあたりを見まわした。
　しかし、ヴァイオリンを演奏している者の姿などどこにも見当たらなかった。
　だというのに、松生の耳にはヴァイオリンのみならずハーモニカの音まで聞こえてくるようである。
「幻、聴……？」
　松生は首を傾げる。二つの音はやがて彼女の意識からゆるやかにフェードアウトしていく。
　それは幻聴にしてはあまりに生々しく、そしてあまりにも胸躍る素敵な音楽だった。
「なんかネコフェスを思い出しちゃうなぁ……」
　ネコフェス――ネコミュージックフェスタは寝子島最大級の音楽の祭典。
　さっきのヴァイオリンの音はなんとなくそこで聴いた誰かの音に似ていた気もする。
　ネコフェスが開かれたのは暑い夏の日のことだった。
　それが今はもう涼しげな秋だということに松生は驚きを隠せない。
（秋が過ぎたらもう冬かあ。なんだか早いなあ）
　松生は時の流れの速さに、ほぅっと深い息を吐く。
（終わっちゃう前に、秋新作ゲームとか秋限定スイーツとか堪能しておきたいわね）
　揺れる梢に目を細めて、そういえばもう紅葉の季節だなと気づく。
「食欲の秋もいいけど、紅葉もいいわよね。また今度サボって見に行っちゃおうかしら、なんてね」
　まんざら冗談でもなさそうにそう呟いて、松生は昼下がりの公園を後にする。
　あとは寮に戻って、ゲームに没頭するだけだ。

　そう。塔尾松生の本当の戦い（サボり）はこれから始まるのである。