悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

　やっと落ち着いた沼田さんに、執はお願いをする。
「今から、織田軍はこの道を通ります。ちょっと先を行っててもらいたいんですが？後から追いつきますから」
「先を行くんですか？それだけなら……」
　罠の存在など、詳しいことを知らない沼田さんは、快く応じた。
　早足で先を行く沼田さん。ところが―――
　パンパン！
「きゃあああ！」
　癇癪玉を踏み、破裂音に驚く沼田さん。
　ワンワン！
「ひいいいい！」
　犬の群れに見つかり、悲鳴を上げる沼田さん。
　ガラガラ！
「ひょええええ！」
　鳴子に引っ掛かり、肝を冷やす沼田さん。
　あわてればあわてるほど、罠に引っかかる。そして余計にあわてる。沼田さんは完全な負のスパイラルに陥ってしまった。

「悲鳴が聞こえるけど、大丈夫なのか？」
　同じ部隊に居合わせた奈良橋博美は、心配そうに執の方を見やる。
「大丈夫だ！一度罠を発動済みにしておけば、後続は引っかからない。沼田さんが引っかかったところで、敵方はその辺の百姓に罠を無駄にされた程度にしか思うまいよ」
「……。でも、あれだけ派手に悲鳴あげちゃうとな……そうだ！」
　博美は、全く関係のない方角へ駆け出す。
「どうしたんだ？」
「オレ、いい方法考えたよ！」
　去っていく博美を、一同は怪訝な顔をして見送った。

「さて、私もお手伝いをしましょうか」
　同じ部隊に紛れ、様子を見ていたアーサー・Ｔ・シートンはこっそりと隊列を離れた。ろっこん「銀狼王」を発動、大きな灰色狼に変身する。
　シートンは慎重に地面のにおいをかぐ。自然ではありえない、火薬のにおいがさっそく見つかる。
（爆竹みたいなものですね。こんなにあるとは……）
　シートンは手際よく癇癪玉を見つけ、回収していく。途中で、いいアイデアを思い付いた。
（今川軍の通り道にこっそり仕掛けておけば、混乱させられるかもしれません。目には目、罠には罠で返させてもらいましょうか）
　どんどん先を行くシートンは、やがて今の自分と同じイヌ科の動物のにおいに行きつく。
（む、敵方の軍用犬ですか）
　視界に数匹の犬の集団が入ってきたが……
　大きな灰色狼のひとにらみで、犬はしっぽを巻いて逃げて行った。
　

　鈴野海斗は、茂みの中に鎧を脱ぎ捨てた。行軍中はあまり体力を使いたくないので、足軽並みに身軽になりたかったのだ。
「ただ、周囲の警戒は絶やしちゃいかんべ。雨が止んだとはいえ、足場が緩いから履物の点検はしっかりするべ」
　海斗は足軽たちに呼びかける。
（しかし、こうして生死をかけた戦いにのぞむとなると、安らぎたくもなるっちゃなあ。妹の言う通り、恋やら愛やらして、な）
　戦いを前にいつになく感傷的になる海斗―――だが、その横をやたら騒がしい声が駆け抜けていく。
「ひゃっはー！妾（わらわ）はメアリ衛門と申す！南蛮の元菓子職人じゃ～！」
「今川焼の発祥を江戸時代から戦国時代に変え、歴史を改変する」という謎の目的のもと動いているのは、メアリ・ラングストンだった。
「どけどけい！自慢の今川焼を義元に食わせてやるのじゃ！」
　しかし、カオスな言動の割に、鳴子を見つけると慎重にナイフで糸を切ったり、妙に冷静でもあった。
「犬もいるから気を付けるべ！」
「大丈夫じゃ、うえ～い！犬は今川焼食わせて手なずけるのじゃ！」
　海斗の忠告を背に、メアリはどんどん先行していった。

　

（お、鳴子見っけ）
　チェシャ猫と化した響タルトは、罠さがしに没頭していた。癇癪玉は道のわきによけ、鳴子は糸を切る。ところが―――
（しまった、犬に見つかった！）
　唸り声をあげる敵方の犬たち。急いで木に登るが、身動きが取れなくなってしまった。
（どうしよう、誰かに犬、追い払ってもらわないと……）
　しかし、間もなく犬たちは何かにおびえたように逃げ去ってしまった。
（？）
　眼下を見ると、大きな灰色狼が一頭、木の根元を通り過ぎていた。
（助かった……狼さん、ありがとう）