悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

「なんともすごいことになったな……」
　甲冑に身を包んだ黒滝竜也は、まさかりを背に織田軍の一員として行軍を続けていた。
　先ほどの築地とかいう少年の話によれば、ここで奮闘しないと歴史が変わってしまうらしい。突然のタイムスリップに戸惑いながらも、このままだと自分も仲間も消えてしまう、という言葉に覚悟を決めたのだった。
　ふと周りを見渡すと、自分とそう変わらない年齢の兵もちらほらいる。そういえば、昔は16，7くらいで大人扱いだったんだっけ。でも、彼らの表情は竜也自身と同じく緊張気味だ。
（初陣……か）
　無駄話はいけない、と思いながらも、竜也は思わず少年兵の一人に声をかけた。
「あんたも、初陣か？」
「いかにも。お主もか？歳は？」
「俺も初陣だ。歳は15だ」
「そうか、立派な体格だから、もっと年上かと思っていた。拙者と同い年だな」
「そうか……大変だな」
「今川との戦いで討ち死にした父上の初陣は、13の時だったそうだ。拙者など大したことはない」
　覚悟が違うな。竜也は思った。この時代の武士は、何より「いくさにん」なのだ。平和に暮らしている現代人とは全く違う。
（彼らの事を思えば、俺はまだまだ弱いんだな）
　傍らの少年兵も、父を殺した今川軍との戦いということで、思う所があるのだろう。肝の据わった「初陣仲間」の姿をみて、竜也も刺激を受けた。一歩進むごとに、迷いは消え、覚悟が確固たるものになっていく。
　もし義元を打ち取れず、歴史が変わってしまったら―――自分の家族や友達は消えてしまう。それだけではない。現代のありとあらゆる人に何らかの影響が出てしまうだろう。そんなことはさせない。
「俺は、できる限りの事をやってみせるよ」
　竜也の心境は知る由もないが、傍らの少年兵は彼の言葉に応じた。
「ああ、拙者も手柄を上げて、亡き父上を喜ばせたいものだ」

「会話を聞く限り、この一隊が一番士気低そうね」
　日本刀を腰に差した維剣姫乃は、目星をつけた部隊に潜り込んだ。農民主体で、あまり戦いに乗り気でないらしい。
「あのうつけ殿が、今川に勝てるわけがねえべ」
　戦の勝敗にも否定的な声が聞こえる。
「そうか、織田軍の奇襲で義元が討たれる展開は知らないもんね」
　ふと口に出す姫乃。ところが、このちょっとした言葉が災難を生んだ。
「お前、なんで先のことが分かる？」
　足軽の一人に聞かれ、姫乃は慌てる。
「いけない！つい口を滑らせちゃった！えーと、これには事情が……」
「怪しい奴！どこぞの間者かも知れねえ！」
　姫乃は、たちまちのうちに数人の兵に捕まり、木陰に押し倒されてしまった。なすすべなく鎧を脱がされる姫乃―――
「む？こいつ結構胸あるべ」
「って、目的はそっちかい！やめて、恥ずかしいからぁ！」
　姫乃のろっこんは「羞恥心バースト」。彼女が感じた恥ずかしさの強さに比例して、身体能力が大幅に上がる。甲冑を脱がされ、下に来ていた服もはだけさせられた姫乃の感じた羞恥心は当然ハイレベルで、のしかかろうとしていた数人の兵卒たちはあっという間に吹き飛ばされた。
「はぁ、はぁ……。二度と私に手を出さないでよ」
　乱れた服の裾を直しながら、姫乃は言う。一瞬で倒された足軽たちは、「ははぁっ」と平伏した。どうも変に心服されてしまったらしい。
「とにかく、行くわよ助平ども！」
　頼りになるのかならないのかわからない手下を得た姫乃は、フライパンを軍配がわりに掲げ、進軍を再開した。
「あなたたちの持ってる槍、長いわね～」
「これか？三間槍と言ってな、普通の槍と違って突くんではなく叩いたり、なぎ払ったりするんだべ」
「へえ……それ、鳴子を切るのにもちょうどいいかもね」
　成り行きで姫乃が率いることになった一隊は、未整備の山道を進んでいく。