悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

　陸枷藍は、意外な人物との遭遇に目を見開いた。
「Guten Tag. 奇遇だな」
　木刀を差し、甲冑に身を包んだメルヒオール・ハルトマンだった。
「メル……君も来てたのか」
「ああ。厄介なことに、桶狭間の戦いに参加するはめになってしまった」
　口調とは裏腹に、メルはわずかながら状況を楽しんでいるようにも見えた。
「それにしても……狭い島じゃ街中でバッタリ会うことはよくあるけど、戦国時代でこんなことになるなんて夢みたいだね」
　しかも、邂逅の相手がメルとは……藍は運命的なものを感じていた。
「そうだな。だが、これは現実だ」
　メルの方はいたって冷静に、藍の出で立ちを眺める。
「君はどうも、鎧を着ているというより鎧に着られているような気がするな」
　鎧を着こなせる現代人なんてそうそういないよ―――メルの辛辣な表現に、藍は心の中で思う。
「まあいい、そんなことより戦いだ。主についてきたまえ。なにか武器になるようなものは？」
「鎧通しと、現代から催涙スプレーを持ってきた。戦わなきゃいけないなら、できる限りの手は尽くすよ」
「ああ、その意気だ」
「僕とメルの時間が、こんな非常事態に邪魔されるなんて許せないからね。だけど、メル」
　藍の問いかけに、メルは振り向く。
「どうした？」
「戦ということは、人の命を奪うことになるけど……」
　少しの沈黙の後、メルは表情を変えることなく言った。
「問題ないさ。刀を扱う以上、こういうことも想定してお祖父様に鍛えられてきたんだから。さあ、行こう。お祖父様に習ったのだが、義元を討ち取ったのは毛利新介と服部小平太という武士だ。彼らが居る部隊に紛れ込めば、義元を打ち取れる可能性が高くなる」
　メルが言うには、さっき不思議な少年に、二人の武士がいる部隊の場所を教えてもらったという。メルと藍は、急ぎ目的の隊列を目指し、歩き出した。