悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

其の弐

　その頃、織田方の善照寺砦では―――
　築地哲は、片膝を付いた姿勢で、大将の織田信長と謁見していた。信長は陣羽織を着用し、采配を手にしている。
「確かに、書状にはまごうことなく公方殿（※ここでは足利将軍）の印が押されておる……しかし、先鋒はすでに出陣を開始しておる。わしも本隊を率いてもうすぐ出陣せねばならん。話そうにも時間はほとんど取れぬぞ。それで良いなら、通せ」
「ありがたき幸せに存じます。壬生どの、こちらへ」
　壬生由貴奈は、さすがに若干の緊張を覚えながら、信長の前に出た。
「信長公、ちょっとだけ話させてくれませんかねぇ……。このままだと、あなたは絶対に勝てないんですよぉ」
「―――聞き捨てならんな。そういうことを言えるなら、証は立てられるのだろうな」
「それは……できないですけど、うちは助言をしに来ただけですよぉ。敵の間者だとしたら、わざわざそんなことしないでしょ？」
「お主の言葉には、興味を惹かれなくもない―――口の利き方は知らぬようだが。わしが負けるという理由を、詳しく申せ」
　信長は、由貴奈の話に興味を持ったようだった。
「はい、実は、行軍中に豪雨が降るのですが―――」
　由貴奈は、行軍中の雨がすぐやみ、敵軍に罠を仕掛けさせる隙が出てきてしまうこと。今川義元の刀が妖刀となって、織田方を苦しめること。
「―――にわかには信じ難いのう」
　疑いの目を向ける信長に対し、由貴奈は力説する。
「信じるも信じないも信長公次第だけど、今のままじゃ負けます。だから、軍をいくらか罠の解除に回して、いざ義元と戦う時になったら護衛を強化しといたほうがいいんです」
「罠の方は、心に留めおくよう下知を出しておこう」
「公方様は、あなたを勝たせるためにうちをここまで遣わしたんですよぉ？公方様は、知勇に優れたものを高く買ってるんです。ちょうどうちみたいな、ね？」
　自分で言うのはあほらしいな、と思いつつも、由貴奈は信長との謁見を締めくくった。ひとまず、半分は目的達成できた。

「おや？」
　ここで、先程から隅の方でじっと黙っていた哲が声を上げた。
「なんじゃ」
　信長の問いに、哲は答える。
「本陣に、猫が紛れ込んでいます」
「今は火急の時じゃ、捨て置けい」
「いいえ、この場合はそうはいきません」
　哲は立ち上がると、本陣に現れたチェシャ猫に近づいて言った。
「君、なんのつもりだい。どうしてここに忍び込んだ」

　次の瞬間、猫の姿は消え、代わりにポニーテールが特徴の少女が現れた。響タルトが、猫に変身できるろっこんを使っていたのだった。
「あちゃー、ばれちゃったか。どうしてわかったの？君は何者？」
「僕は築地哲―――歴史を変えないようにするのが僕の役目だ」
「タイムパトロールの人ってこと？」
「イメージとしては、それに近いかな」
　タルトと哲の会話に、信長が声を荒らげて割って入る。
「そこの小娘！どうやってここに入った？」
「あ、えーと……」
　タルトは慌てて釈明を考える。哲の顔立ちはそこそこに整っていたので、もう少し会話してみたかったのだが、状況を考えると仕方がない。
「怪しいものじゃないです……そう、ワタシ、響タルト！南蛮から来マシタ！さっきのは、南蛮の手品デス！」
　タルトはカタコト風の日本語でごまかしながら申し開きをするが、怪しさ満点だ。
「して、お主は何しに来た」
「あの、よかったらみなさんの絵を書かせてください！」
「今から戦だぞ、正気かお主は。なぜわざわざ絵など……」
　呆れ顔の信長に、タルトは答える。
「だって戦国時代ってBLの世界じゃないですか！殿様と小姓とか……もしさっきの話が本当で信長様が負けたりしたらBLが廃れちゃうかも。これ、一大事ですよ！信長様を応援しますから、森蘭丸さんとかよかったら描きたいな～。薄い本の参考に！」
「びぃ、えるとは何ぞ……？」
「信長様、気にしてはなりません。それからタルトくん、森蘭丸はまだ生まれてない」
　哲はタルトに突っ込みを入れる。
「もういい、好きにしろ。わしは急ぐ。流れ矢にあたっても知らぬぞ」
　信長は立ち上がり、甲冑を持ってこさせた。いよいよ大将の出陣だ。
「そうだ、タルトちゃんとか言ったねぇ。織田軍のために、ちょっと力、貸してもらえるかしら。猫の姿になれば、罠を見つける役にたつと思うのよぉ」
　由貴奈の言葉に、タルトは快く応じた。
「僕に出来ることなら、喜んで！」

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