【らっかみおろし】第３区間：町から海へ｜リアクション

【らっかみおろし】第３区間：町から海へ

（ああ、どうしよう。虎猫チームと三毛猫チームに抜かされちゃった……）
　去っていく山駕篭を見送る勘助。
　彼が縮み上がっている間も、島民の皆さんとちびっこの攻撃は続き、ずっと円と梢がらっかみさまを守ってくれている。
（二人が頑張ってるのに、一人だけ、怖がってちゃダメだよな……少しでも男らしいところ、みせないと……！）
　その時、梢が彼の背中をポンポンと叩いた。首を少し横に振って、
「大丈夫、そんなのじゃないって！」
「屋敷野さん……？」
（もしかして、俺が怖くなっちゃってたのに気づいたのかな……？　心配かけちゃったんだ、俺……）
　ぷるぷると勘助は頭を振った。もう立ち止まってはいられない。自分のためにも、２人のためにも。
（それに、　もし、この人形がらっかみさまだとしたら、一番辛いのは、らっかみさまだ。ただ皆さんに幸運を振りまいて、海へ向かっているだけなのに……面白半分で石や、泥を投げつけられて、乱暴に押し寄せてくるのを見て……怖がってる、と思う……）
「……皆さん」
　勘助は顔を上げて言った。
「子ども達も、お姉さん達も、もう少し、らっかみさまを大切に、しませんか……？」
「勘助くん……」
　勇気を振り絞る彼の姿に、不思議と円から小さな笑みがこぼれた。
「……皆さんで、らっかみさまを守って、海まで届けませんか……？」
　勘助の言葉に、島民の皆さんは顔を見合わせた。
「皆で？　この人形を守る……？？」
「ねぇ、君達」
　今度は、円がちびっこに呼びかける。
「泥を投げるより、もっと面白いことがあるんだけどどうかな？」
　そう言って、山駕籠から旗を抜き、子供達に渡す。
「一緒に走らない？」
「え？」

「小学生で祭りに参加して、走り手になった子は今までいないし、激レアだよ。それにね、危ないことをするよりも、こういうことの楽しみを覚えてくれたほうが、お姉さん達も嬉しいし、案外やってみると楽しいものだよ。……ほら、人形に触ってみて。これに触ると一年は福が訪れるらしいからさ」
「一緒に走ってくれたら、おねーちゃんからもプレゼントがありまーす」
　そう言ったのは梢である。その腕の中には、バッキー、ニャリッツ、ちょっとと。
「どうしたの、そのお菓子？」
　円が訊くと、梢はふふふと笑った。
「桜庭さんが話してる間に、そこの駄菓子屋さんで買ったんですよー。ちびっこを釣る……げふんげふん、ちびっこの心を動かすにはお菓子が覿面かと思いましてー」
「……もー、しょうがないなー。わかったよ」
「お菓子くれるなら、俺たちも走るー」
　ちびっこ達が集まってきたので、順番ですよー、と言いながら梢はお菓子を分けてあげる。
「俺、旗持ちたいー」
「うん、どうぞ。みんなに見えるように高くあげてね」
　円はニッコリ笑って、ちびっこに旗を任せる。すると大人達も……。
「らっかみさまと一緒に走るなんて、考えもしなかったな。いつも触って見送るばっかりだったし」
「でも、そういうのも面白そうですなー」
　流石、寝子島の大人達、話がわかる。
「……じゃあ、出発の前に一度、らっかみさまを洗おうか。たくさん触られて汚れちゃったから」
　勘助はショルダーバッグから出した、水筒と小型ブラシで人形を洗う。
　島民の皆さんも手伝ってくれて、らっかみさまもリフレッシュ。ピッカピカになった。
「……よーし、行こうか、みんな！」
「おおーーっ！！」
　たくさんの人を味方につけて、さび猫チームも前進再開……！

　それにしても、いなくなってしまった黒猫チームのらっかみさまはどこに行ったのだろう……？