chapter.1　第２区間スタート地点　

　らっかみおろし第２区間は九夜山の麓からスタート。樹海を抜け沼地を越えた先、町へと入る境がゴールとなっている。


　第１区間をトップでゴールした三毛猫チーム。ビーズのティアラにピンク水着、さらにカーディガンを羽織ったらっかみさま人形の周りを１人の男子高校生と２人の女子小学生が囲んでいた。





「全く……走る前から頭が痛いぜ……」
　如月 庚は頭を抱える。
「これがらっかみさま」
　劉 瑞麗がぽつりと言い、興味深そうに山駕籠の中の人形を見つめる。
「ちょっとアレンジされてるけどね！　寝子島の守り神だよ！」
　熱心に説明するのは小島 海美。
「最後まで走るとご利益ある？」
「うんうん！　るいりちゃんにもきっといいことあるんだよ！」
「なんで……ガキが増えてんだ……」
　瑞麗に出場したいとせがまれ渋々の参加だった庚。思わず愚痴がこぼすと、海美が口を結んで見上げてくきた。
「あ、いや、ガキ……子どもは……嫌いじゃないぜ？」
　しかし幸先は不安だ。不安しかない。
「うー、庚はるいりの友達。顔は怖いけどいい人」
「うん！　庚おにいちゃん、よろしくお願いします！」
「ああ、頑張ろうな」
　朋友一致団結。瑞麗の音頭で３人握手。
「よし、気持ちが１つになったところで」
　山駕籠を持ち上げようとする庚だったが、
「だめだよ庚おにいちゃん！　飾り付けしないと！」
「るいりも飾るように教わった」
「……」
　海美がらっかみさま人形の装飾を始める。
「まずはこれを持たせるの！」
　手にチアが使うぽんぽんを握らせると、
「まだ足りない！」
　扇子を後頭部に取り付けちょんまげのように。
「あとは……このにゃんこビーチボールものっけて……」





「うわっ、ヘンなかっこ！」
（自分で飾っておいて言うんかい……）
　心の中で突っ込む庚。
　さらに瑞麗も続く。





「これが人形を守ってくれる」
　埴輪を人形のそばへちょこん。
「楽しそうに飾ってら……」
　もはや庚にとってみれば、チームの仲間というよりも保護者な気分。
（人形だけじゃなく、こいつらも守らにゃならんのか……）
「あとこれも」
　瑞麗の仕上げ。叔父の部屋からこっそり持ち出した、裸の女性が載っている本を飾り付け。
（な、なんでエロ本が……）
　突っ込むに突っ込めない。
「庚も何か飾って」
「……じゃあこれを」
　一輪の花を人形の側頭に。
「うわーきれい！」
「ハイビスカス。落神花っていうらしいぜ」
「だいぶ統一感が出てきたね！」
「そ、そうか？　統一感なんて言葉よく知ってるな……って２位以下の奴ら来ちまったぞ！」
　第１区間で付けた差が見事にゼロへ。これは気まずい。
「急ぐぞ！」
　こうなったら人形もガキどもも全てひっくるめて面倒みてやる。覚悟する庚、山駕籠を担ぐ。
「よし、出発だ」
「おー！」


　２番手のさび猫チームは恵御納 夏朝、小山内 海、佐藤 英二のトリオ。第２区間を走るチームの中では最も堅実派（？）な構成。事前に示し合わせたわけでもないのに、全員寝子高ジャージに身を包んでユニフォーム然としている。　
「僕が前を受け持つね」
　唯一の男だし、自分がチームメイトの足を引っ張らないように。と英二が率先して前へ出る。
「まずは僕がサポートしようかな。小山内さん、後ろよろしくね」
　夏朝に声をかけられ、強くうなずく海。
「みんなで力を合わせて頑張ろう！」
　気持ちを一つにして、さび猫チームいざスタート！


　そのさび猫チームと僅差で襷をつないだのが黒猫チームだ。
「よし……デコはばっちりだぜ」
　渾身の作品が出来上がり満足げな冴木 竜司。レインボーパンツでらっかみさま人形と山駕籠をカラフルに装飾したのだ。
「お兄ちゃん……ニャルキー甘くて美味しいです」
　竜司から振る舞われたニャルキーを口の中で転がしながら鬼崎 つくしが言う。
「うんうん、山歩きには甘いものだべ」
　鈴野 海斗もほっこり顔で舐めている。爺ちゃんからの命令での半ば強引な参戦。どうせなら一番非力そうなチームにと、変態しか取り柄のなさそうな竜司と、いかにも非力そうなつくしの凸凹２人組のチームに加わった。
「栄養も補給したし！　いっちょ行ってみるか！」
「転びそうになったら踏ん張るよりも素直に転ぶべ。その方が怪我なく済むことが多いべ」
「了解だ！」
　竜司と海斗が山駕籠を担ぐ。
「私は補佐しかできませんが……」
「いいんだよつくしちゃんは応援の声だけ出してくれれば（あとそのロリボディを見せてくれていれば）！」
「お兄ちゃん……」
　勢いよく走り出す竜司に見とれるつくし。
（変態ロリコンさんでも大好きです……）
「マイペースにいくべー」
　３人それぞれの思いが交錯する中、さび猫チームに半歩遅れて黒猫チーム出陣。


　虎猫チームは黒猫チームよりやや遅れて、４位での第２区間スタート。この区間、最もハンデを背負うチームだ。
「もはや原形がないな……」
　らっかみさま人形の奇抜な姿につぶやく八神 修。虎のマントに大漁旗、そしてスター歌手のごとき脇の下のビラビラ。第１区間の難関を乗り越えて所々が擦り切れ、大物の貫禄すらあった。
「さらにこれを飾るのじゃ」
　失礼します。丁寧におじぎして、立井 駒鳥が魚と花を模した手作りの灯を裾にいっぱい付けていく。これで少しは神様らしくなる。
「よし、ならば俺も」
　籠底と背面に座布団を挟み込む。これでらっかみ様もくつろぎながらレースを見守れることだろう。
「今はどの席でもシートベルトは着用だからな」
　そう言ってリボンを人形にかけて固定する。さらに籠前方には交通安全のお守り。
「みんなで無事にらっかみさまを届けるのじゃ」
「ああ。そしてできれば上位に食い込もう」
　ハンデの重りを付け終え、入念に準備体操していた光村 日向が所定の位置につく。彼は籠前を担当だ。
「よろしく。頑張っていこう……ね」
　修が付けた交通安全のお守りを視界の隅に見つけ、妹から託されたお守りを思い出す。
（一番目指して頑張ってくるね）
　駒鳥が籠後、修は補佐。虎猫チーム、走り出す。


「最下位か……頑張らないとね」
　日暮 ねむるが静かに燃えている。
「逆境こそチャンス。これ以上は負けない、オレたちの前にはあるのはウィニングロードのみ」
　キーパー服の鎌八 まもる、両の拳をガンガン突き合わせる。
「にゃんこたん、ねむる、気合入れていくぜ」
　らっかみさまの守護神として。最後まで守ることを誓う。
「ねむるくん、鎌八くん、よろしく〜」
　にゃんこたんと呼ばれた響 タルトは長いポニーテールを遊ばせて位置につく。真ん中でのらっかみさま人形サポートだ。
「今日もいいポニテだな……」
　ほわんとした気持ちになるが、すぐに首を横に振る。
「いやいや……オレが今日守るのはこのらっかみさま」
　そう言って懐から取り出したのはポニテのエクステ。
「これで守護神パワーは３００倍」
「ほんとにポニテが好きだねぇ」
　感心のタルト。
「俺もポニーテール付けたほうがさらに強くなるかな？」
　冗談で言うねむるだが、まもるは満更でもないと親指を立てる。
「……えっと、そうだ、俺もこれ」
　そう言って強引に話題を変えるねむるが取り出したのは、家族で経営する「インターネットカフェ【眠り舎】」のチラシ。さすがに人形に直接は罰当たりだからと、籠の周りに貼り付けていく。
「これで集客アップにつながればいいんだけどねえ」
　うさ耳カチューシャに眼帯、ポニーテール、そしてチラシ。もはやチンドン屋か何かだ。
「山を抜けて街まで出れば。いい宣伝になる」
「そこまで無傷で運ぼうね！」
「そんじゃキックオフってことで」
「ああ」
　ねむる・まもる・タルトのリズムのいいトリオスタート。それぞれの突出したステータスは、集客力、ポニテ力、BL力。あまりレースには関係ない。