月夜に囚われし姫君を救え｜リアクション

月夜に囚われし姫君を救え

（何だ、これは？！）
　白鋼が払うように身を翻すも取れない。それらは一斉に噛み付いたり引っかいたりして集中力を削ぐ。その正体は陽太が放った粘土細工だった。乱戦しているその中に身を隠し、彼はチャンスを狙っていた。陽太のろっこん『CCC』は自作の粘土細工を指でつつく事でそれらを自在に操る事ができるのだ。
　陽太が作った隙へ飛び込もうと走る円たちだが、思わずこけてしまった。どうやら瓢がスコップで邪魔したらしい。
「あっはっはっ、邪魔してやるよぉい！！　大人しく結婚させればよかろうに、水さすったぁ粋じゃないねぃ！」
　スコップで殴りかかるも、どうにか避ける円。顔見知りである分やりづらいものの、戦闘力は白鋼に比べればたいした事はない。ただ、彼の場合は奇策を打ってくるのだ。
　小柄な身体とすばしっこさを生かして攻撃を回避し、スコップで足を文字通りひっぱる。その地味な攻撃だが、実は陽太などは苦しめられていた。
　それでも陽太は振り切って走り出す。気が削がれた今を狙うのだ。途中、宙太郎と目が合えば肯きあい、タイミングを合わせて地上と虚空から同時に蹴りを放つ。
「「はあっ！！」」
「ぐっ……」
　辛うじて反応し受けとめたが、死角から放たれた此方の攻撃までは受けられなかった。さすがに透明になっているのと小柄な身体が優位に働いた結果だろう。
「なかなかやるな」
　傘を弾き、体制を整える白鋼。此方は額の汗を拭って言う。
「助けてくれた人なのに、好きな人なのに、自分の気持ちを好きになった人に押し付けるの？　それが貴方の感謝で好きって気持ちの伝え方なの？」
「……？」
　白鋼に聞こえるよう、此方はもう１度しっかりと言う。
「好きな人の気持ちは、貴方の気持ちより優先するものじゃないのね」
　その一言に、白鋼の表情が曇った。

　一方、銀譲と名乗った虎を相手にしていた天懸はボールを使って気を引いていた。年若いというより、少し幼い部分が残る虎はボールを眼で追う。
「やっぱり巨猫さまなのだ。早くもふもふくんかくんかしたいのだ」
　真央はわくわくした様子で身構える。なにか作戦があるのか、タイミングを見計らっているようだった。
『お、俺は武人！　こ、このような……小さな鞠に気など……っ！』
　銀穣の反応に僅かな手ごたえを感じていた天懸だったが、さすがに白鋼の近衛だけあってすぐに反応を切り替えた。
『騙されぬぞ！　俺は、白鋼様の近衛なのだから！』
　大振りな爪の一撃を舌打ち１つ避ける天懸。その１人と１頭の間に黒い影が入り、虎の視界を塞ぐ。月が影を操っているのだ。
　天懸は思わず月の仕草に見とれたが、すぐに気持ちを切り替える。女好きの性なのかもしれないが、今はナンパどころではない。
　その間に好機と睨んだ猫大好き娘、真央はろっこん『にゃにゃにゃがおーっ！』をつかい、でっぷりもっふりとした三毛猫『がおー』を呼び出していた。
「がおー、この巨猫さまのしっぽにむしゃぶりついて気を逸らすのだ！　いくのだ、がおーっ！」
　三毛猫は真央の言葉に反応し、影に視界を塞がれた虎へと駆けていく。銀穣は視界を塞がれた事に苛立ち、暴れている。がおーはそのボディからは想像できないような素早さでどうにか避ける。
　しかし、虎は乱暴に影を払うと天懸と真央へと踊りかかる！
「間に合えっ！」
　天懸は半ば祈るような気持ちで右耳に触れ、血で指を濡らす。けれどそれよりも早く虎の手が迫った。
「がおーっ！」
「させるか！」
　真央の叫びに反応し、虎の顔へ張り付くがおー。そして月の影が天懸を庇う。彼は僅かに恥ずかしさを滲ませて苦笑する。
「助けられたばかりだな」
「こういう時は、お互い様だ」
　そんな２人を庇うように動く影の先、真央の相棒が振り落とされる。真央は落ちるがおーを受け止め、虎の後ろへと回った。
「どうにか首根っこを押さえられたら、おとなしくなるかもしれねぇんだけどな……」
　天懸の言葉に、月はなにか閃く。彼女はぽつり、と１つの提案を天懸へとする事にした。