月夜の晩に｜リアクション

月夜の晩に

１２――【中庭・出現した鍵】
　ほどなく。
　全員が中庭の一画――学食の前あたりへと集まって来た。
　朱音の背から降りて、由貴の傍にいる海美を見つけると、真央は駆け寄った。ちなみに、彼女のことはかおる子から聞いている。
「まおちゃん！」
　うれしそうに声を上げる彼女に、真央は袋に入れた『オヤツセット』を差し出す。
　受け取った海美は、喉が渇いていたのか、「今飲んでもいいの？」と尋ね、真央がうなずくとすぐにペットボトルの口を開いて、中身を口にした。
　そこへ、修と刀もやって来る。
　二人も、海美とは旧知の中だ。海美と真央は、蜂の体液まみれの刀の姿に、目を丸くする。
「ずっと、蜂と戦ってたからな」
　言って、刀は改めて自分の姿を眺めた。
「戻ったら、まずは風呂だな」
「その前に、戻れるのか――だがな」
　刀に言って、修はあたりを見回す。
「全員をここに集めたってことは、鍵が出現したと考えていいと思うが」
「私もそう思うけどー、それらしいものは、見当たらないよー」
　そう声をかけて来たのは、葵だった。そして、尋ねる。
「ところで、あの人誰かなー」
　彼女が指さしたのは、ラゴだった。
　修は、彼について説明する。
「ふうん。小島くん同様、偶然巻き込まれたイレギュラーってわけだねー」
　葵が納得したように、うなずいた。
　他の者たちも、なんとなく集まって、あたりを見回したり低い声で話したりしている。
　それへ、声を張ったのは、朱音だった。
「みんな、ご苦労様です！　かおる子さんに、ここに集まるよう言ってもらったのは、私なの。私、ここから出る鍵を、見つけちゃったんじゃないかと思うのよ」
「鍵は、どこにあるんや？」
　即座に問うたのは、奈々美だった。
「それは、あれよ！」
　朱音が、真っ直ぐに天空を指さす。
　全員が、その視線を追った。そして、そのまま息を飲む。
「嘘だろ……」
「あれが……鍵？」
　棗と夏朝が、低い声を上げる。
　朱音が指さしたのは、天空に輝く巨大な赤い満月だった。
　それは、最前よりも更に赤さを増しているように見えた。しかも、その表面に現れていた目は今や、大きく開かれている。そして、その目の中にはぼんやりと、多くの生徒が集う昼間の中庭の光景が映っていた。
「……最初にここに来た時、私が見たのはこれだわ。目の中には、教室にいるほのかが映っていた……」
　琴美が、低く呟く。
　どうやら、朱音が思ったとおり、これが鍵のようだ。
　表面に目を浮かべた月は、彼らが最初ここに来た時よりも、ずいぶんと位置が低くなっているようにも見えた。だが、空に浮かんでいることそのものは、変わらない。
　結局、遠距離攻撃ができるということで、キリエと飛鳥、それに射撃部の部室からＢＢ弾を装填したライフルを持って来ていた修の三人が、鍵を破壊することになった。
　ちなみに、ＢＢ弾は由貴が凍らせたものと、勇樹の血をつけたものの、二種類が用意された。
「Holy, Holy, Holy, Lord God Almighty（聖なる、聖なる、聖なるかな）──聖痕光（コンフェシオ）！」
　キリエが、月に向かって右手のひらの十字架状の痣を向け、聖句を唱える。
「こ・わ・れ・ろ！」
　のど飴を舐めた飛鳥が、叫ぶ。
　修がライフルを連射する。
　キリエの手のひらから放たれたレーザーは、赤い月めがけて真っ直ぐに伸びて行った。
　巨大なブロックに変じた言葉は、これまた赤い月めがけて飛んで行く。
　レーザーが、月に現れた目の中心を貫いた。同時に、ブロックが次々と目に激突する。
　凍った銃弾が同じく、目に衝撃を与え、勇樹の血をつけたものは、彼が唇を噛み切って「正義執行！」と叫んだ途端に炎を吹き出し、目を焼いた。
　次の瞬間。真っ赤な月の表面に細かな亀裂が生じた。
　そして、そこからまぶしい光があふれ出す。光は夜を凌駕し、やがて世界を包み込んで行った――。

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