月夜の晩に｜リアクション

月夜の晩に

１１――【北校舎二階】
　そのころ、北校舎の二階では、最後のろうそくが発見されていた。
　場所は、家庭科室の奥。そこに一台だけある、年代ものの足踏みミシンの上だった。
　見つけたのは、美咲紀だ。
「ろうそくを、見つけたのです！」
　彼女は、見つけるなり写真を撮ると、次には外に出て仲間たちを呼んだ。
　ちょうどそこへ、三階から真央、夏朝、月、九月、亮悟、それに琴美とほのかも降りて来たので、彼女の叫びに、もともと二階にいて他の部屋を調べていた梅、ラゴ、修と共に駆けつけて来る。
「ろうそくは、この奥のミシンの上なのです」
　集まって来た仲間たちに、美咲紀が告げた。
「美咲紀ちゃん、お手柄なのだ！」
「美咲紀が見つけたんだ。火を消すのも、美咲紀がするといい」
　叫ぶ真央の傍から、修が冷静に言う。
「はい！」
　うなずくと、美咲紀は再び中へと入って行く。そのあとに、他の者たちも続いた。
　美咲紀は、ろうそくの前で立ち止まると、強く息を吹きかける。炎はゆらめき、消えたかと思ったが、わずかに芯の端に火がくすぶっていて、完全に消えてくれなかった。
　眉をしかめてそれを見据える美咲紀は、ふいに小さく手を打つと、真央からもらった袋を開けた。ペットボトルを取り出し、口を開けると、中身をかける。
　途端、小さな音がして、火は完全に消えた。
「おおー、ペットボトルに、こんな使い方があったのだ」
　真央は、感心したように目を見張る。
　その時だった。
　ふいに、あたりに低い鐘のような底ごもる音が響き始めた。
「なんやら、妙な音が聞こえる気ぃするけど、空耳やろか」
　梅があたりを見回し、呟く。
「空耳じゃないよ。わたしにも、聞こえてるよ」
　かぶりをふって、九月が答えた。
　つと窓辺に寄ったのは、月だ。
「窓の外を見ろ」
　低い声で彼女が促すのへ、他の者たちも窓辺に駆けつけた。
　そして、誰もが思わず目を見張る。
　窓の外には、蜂の大群がいたのだ。もっともそれは、彼らを攻撃しようとしているわけではない。むしろ、どこかへ群れを成して逃げているという方が正しいだろう。
　蜂は、隊列を組むようにして、月光の照らす空中をどこかへ向かっているようだ。
「とにかく、かおる子を呼んで、ろうそくが全て消えたことを、みんなに知らせてもらいましょう」
　ややあって、我に返ったように言ったのは、ほのかだった。

　蜂の群れは、南校舎からも一斉に姿を消していた。
　三階の西端の教室に集まっていた蜂たちも、ふいに潮が引くようにいなくなり始め、驚いた刀は蜂たちを追って、外に出た。
　蜂の群れは、廊下から階段に沿って屋上へと飛んで行く。それを追って、刀もやがて屋上に出た。
「あれは……」
　蜂の群れは、南校舎からだけでなく、北校舎からも体育館や武道場、中庭の茂みや学校周辺の木々の影など、あらゆるところから飛び立ち、巨大な流れとなってある一点を目指していた。プールだ。
「あそこに、奴らの巣があるのか……？」
　眉をひそめて、刀は呟く。そして、ならばそれごと殲滅すべきだろうかと考える。
　その時。
「ろうそくの、最後の一本が消されました。全員、中庭に集まって下さい」
　妙に淡々としたかおる子の声が、重く鐘の音の鳴り渡る中、はっきりと響いた。
「ろうそくが、全て消された？　つまり、あとは現れた鍵を壊すだけということか」
　その声に呟き、刀は踵を返した。
　あの様子では、蜂はもう彼らに襲いかかって来ることはなさそうだ。となれば、巣を殲滅するまでもない。それよりも、仲間たちの元へ急ごう。――そう彼は、結論づけたのだった。
　三階に降りた彼を、一緒に南校舎を探索した仲間たちが待っていた。
「御剣くん、お疲れさまー。もうあとひと踏ん張りみたいだよー」
　声をかけて来る葵にうなずき、彼はエレベーターへと向かう。葵たちも、そのあとに続いた。

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