スイート・タイフーンにご注意を？｜リアクション

スイート・タイフーンにご注意を？

　藍は口に入ったババロアを全て飲み込んでいた上、詰まらせていなかった。意識もはっきりしているが、問題は衣服である。
「ババロアでびしょぬれだなぁ」
「と、とりあえず使って……」
　蓮太郎が真央からタオルを受け取り、藍に渡す。勘助もまた、自分の上着を貸し、藍は恥ずかしそうに一礼した。
「真央ちゃん、こっち！」
　円が真央を呼び、テオを受け取る。そして呼吸をしているか確認した。落ちたショックで気を失ったのだろう、テオはあまりババロアを飲んでいなかった。それでも軽く逆さまにして入っていたババロアを取り除けば、直ぐに呼吸が楽になったようだった。
「にゃーくんの為に覚えておいた応急処置が役に立ってよかった」
「後は、目が覚めるのを待つだけだね」
　蔵人も安堵した表情でテオの頭を撫で、タオルで包み込む。その傍らで夏朝は辺りを見渡し、１つの建物を見つめる。
「避難したほうがいいと思う。ババロアの水かさ？　が増えてきてるみたい」
「そういやぁ、そうだな。高台に避難しねぇとまずいぞ」
　バルシュもまた肯き、藍に手を貸す。その場に居たメンバーは一旦夏朝が見つけた建物へと避難する事にした。

　夏朝が見つけた建物の２階には、小さな病院があった。そこはもぬけの殻で、毛布など何枚か用意されていた。テオと着替えた藍は毛布に包まり、懐炉を使って身体を温めた。
「猫さん、助かってよかったです……。皆さん、ご迷惑おかけしました」
　しゅん、とした様子の藍に、バルシュは「助かったからよかったじゃねぇか」と笑いかけた。
「……さて。次は綿菓子の雲をどうにかしに行こう」
「修ちゃんにお供するのだ！」
　テオの事が気がかりだった修だが、事態解決の為に動こうと残った人たちへとテオを託す。真央も手伝おうと彼についていく事にした。そこで２人を引き止めたのは蔵人だった。
「もし良かったら、私もいいかな。あの雲が気になるんだ」
「風は少し弱まりましたが、危ない目にあうかもしれませんよ？」
　修がそう言うのは、蔵人が『もれいび』か『ひと』か解らなかったからである。『ひと』ならば『ろっこん』が使いづらくなるし、危険が及ぶ可能性もあるので、できればここで待っていてもらいたかった。しかし、相手は自分たちより大人である。そう無茶な行動はしないだろう。
「少しでも多いほうがいいのだ。食べるだけでも解決に繋がるかもしれないのだ」
「それもそうだな」
　笑顔で言う真央の言葉に、修は肯いた。
「気をつけて行けよー。俺たちはもう少しここで休んでいくよ。猫ちゃんやこの子の事も気になるからさ」
　蓮太郎が明るい声でいい、３人は頭を下げて外へ出た。目指すは駅ビルの屋上。真央がねこったーで『綿菓子の雲を潰すべく多くの人が集っている』事を知ったのだ。
（確かに雲の事も気になったけど……、他にも色々、見ていたいからね）
　蔵人はおかしな現象を目に焼き付けようと、こっそり表情を引き締めた。

　暫くして。気を失っていたテオは漸く目を覚ました。我に返ったテオは夏朝に抱えられ、円と勘助に見守られていた。
「起きそう……だね」
　勘助の言葉で、テオははっきりと目を覚ます。そして辺りを見渡し怪訝そうに首をかしげた。
「……ここ、は？」
「やっと気がついたんだね！」
　夏朝の表情が、ぱっ、と明るくなる。テオは助けられた事を感じ、降りようとしたが円にこつん、と頭を打たれる。
「な、何だ？！」
「テオ！　ののこちゃんの事が大事なのは解るけどさ、自分の事も大切にしなきゃ駄目だよ！」
　その言葉にふん、と鼻を鳴らすテオだが、夏朝は苦笑しつつも優しく抱きしめる。彼女は逃れようとするテオにそっと、こう言った。
「助かってよかったよ、テオ君。いつも、隔離したり助けてくれて……ありがとう」
「別に、お前らの為にやってる訳じゃねぇよ」
　テオはすたり、と夏朝の腕から降りるとその部屋に居る者達を見る。そして、そっけなくこう言った。
「まぁ、精々綿菓子の雲が倒されるまでおとなしくしておくこった。じゃあな」
　そして、虚空に猫パンチすると、するっ、と姿をくらました。夏朝が引きとめようとした物の、お構い無しに、である。
「テオ君……」
　しゅん、とした様子の夏朝に、勘助は穏やかに言う。
「照れくさかったのかも……しれないね」
「テオは素直じゃないんだよ」
　円の言葉に２人は苦笑した。

　外ではお菓子が降り注ぎ、ババロアは溢れて街の道路を満たしていく。病院に残ったメンバーは、その光景を見ながらも蓮太郎や藍が拾ったお菓子を食べて一休みする事になった。

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スイート・タイフーンにご注意を？

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