うみねこ１日店員求む｜リアクション

うみねこ１日店員求む

●落ちつく時間

　店の前で待つ七夜あおいに、綾辻綾花は、買った一口かき揚げを手渡す。
「あおいちゃんと、ののこちゃんの分です。私からのプレゼントです」
　誘いに来た時にどこかに出かけて留守だった野々ののこに渡してほしいと、あおいに伝える。
「あおい、ちゃんと渡すんだぞ」
　一口かき揚げを嬉しそうに受け取ったあおいを見て、つられて嬉しくなる八神修。
「ありがとう、綾花ちゃん。ののこちゃんに必ず渡すね」
「私は用事がありますので、お先に失礼します」

　帰るにはまだ早いので、修とあおいは漁港周辺を散歩している。
「夏休みの一番の思い出は？　鈴島キャンプも楽しかったが、他にもあっただろう？」
　いろいろあって迷うな、と答えたので、あおいの思い出はたくさんあるのだろう。
「あおいは、里帰りはしたのか？」
　彼女の故郷がどんなところか気になるので聞いてみたが、帰省せず、ののこと一緒に過ごしていたと言う。
「修君の思い出は？　里帰りしたの？」
「俺の思い出？　そうだな……」
　本土の予備校での夏期講習に海外旅行、八神の企業体としての海外拠点を彼方此方と、といったことしか思いつかない。
（半分、仕事かも。帰省した時は、父さんと進路の話をしただけだったし）
　苦笑しながら、修は話題を変えた。
「お弁当のオカズになりそうなの、あった？」
「いろいろありすぎて迷っちゃった」
「そうか。試食会をする時は呼んでくれよ」
　お弁当作りを頑張っているあおいを応援したい。そう思う修だった。

　それから数十分後。最後の客が帰ったので、１日店員達は休憩することに。
「皆、お疲れ様。すぐ食べられる昼食と飲み物を買ってきた。夕方も頑張ろう」
　黒滝竜也の差し入れを、皆、ありがたく受けとる。
　疲労の色が濃い塔ヶ崎璃亜が倒れないかと心配していたが、皿を割ってしまった一件以外は、無事に仕事をこなしていた。
「これ飲んで、ゆっくり休むといい。ゲームセンターの時みたいに無理するなよ、塔ヶ崎」
「ありがとうございます」
　絞ったタオルとスポーツドリンクを受け取った璃亜は、竜也を心配させないよう、ゆっくり休むことに。
「ペース配分も大事なんだね……はふー」
　椅子に座り体力を温存する鴇波羽衣は、魚戸夫妻は毎日こんなに働いているから大変だと改めて実感。
（海鮮かき揚げ、やっぱ人気だなー……今度来て食べよう）
　昼食を食べながら、密かにそう思った。

　昼食を食べ終わったら一休み……とはいかず。
　休むよう総悟と七星に勧められた璃亜を除く全員で、夕方の開店に向け店内清掃や仕込み、食材買い出しと目まぐるしく動き回る。
「夕方は、お昼以上に忙しくなりますよ。休める時に、ゆっくり休んでください」
　他の面々より手伝い歴が長い総悟は、誰よりも魚戸夫妻の仕事ぶりを見ていたこともあり、寝子高生達の疲労感が良くわかる。