うみねこ１日店員求む｜リアクション

うみねこ１日店員求む

●開店に向けて

「これが終わったら、生春巻きも仕込むか」
「さっき、小麗って子が春巻きの材料を買いに行ったよ。帰ってから仕込んだほうがいいんじゃない？」
　いっぱい食べてもらうのだ！　と李小麗は材料をダッシュで買いに行くのを見た神楽坂澪が、望月と塔ヶ崎璃亜にそう伝える。
「生春巻きは小麗ちゃん提案メニューだから、人一倍思い入れがあるんだ」
　改装手伝いで一緒だったので、宇佐見望月はそのことを知っている。
「そうでしたか。では、生春巻きは小麗さんが帰ってきてからにしましょう。私は、生姜焼きの豚肉の下処理をします」
　注文の多いメニューとメモに書いてあったので、璃亜は、焼き縮みを防ぐために豚肉の脂肪と赤身の間の筋を断つように包丁を入れる。
　いくつものアルバイトを掛け持ちしているので、調理に関する知識は自然と身に着いたようだ。
　それが終わると、焼く時に加えるタレの準備を。
「キミも手慣れているね」
「調理のアルバイトもしていますので」
　酒、しょうゆ、みりん、しょうが汁を加え、璃亜は丁寧にタレを作る。
（女の子が頑張っているから、僕も負けていられないね）
　ケンゾウが前日に仕込んだ野菜とルーが入ったカレーを煮込みながら、メモを確認し、暑さを堪え頑張る澪。
（『町内会婦人部相談会』という名の『俺いじられ会』を回避することができたぜ。ウチの店にいたら、ねーちゃんの無茶振りと、町内会のオネエサマ方のお相手で死ぬところだったぜ）
　千切りを作り終え、別の料理作りをする望月はいい口実ができて良かったと安心していた。
　その辺りの事情は……詳しく聞かないでほしい。

「ただいまなのだ！　生春巻きとかき揚げの材料を買ってきたのだ！」
　買い出しに行っていた小麗が、両手にスーパーの袋を持って帰ってきた。
「ご苦労さん、小麗ちゃん」
　材料をチェックした望月は、これでかき揚げがたくさん作れると思った。
　ホットショーケースの中に一口かき揚げを入れる容器にいくつ入るかを確認してから、テイクアウト用のかき揚げを作っておく。
「要望があるってことは、たくさん売れるかもな。タネは今のうちに材料を切って、保存したものを小出しにして揚げよう」
　小麦粉に卵を加え、タネを作ると細く切った野菜や魚といった材料を入れ混ぜていく。
「油の温度……ちょうどいい具合になりました」
　揚げ物用の油を用意した塔ヶ崎璃亜が、いつでも作れますよと伝える。
「じゃあ作るぜ。揚げ初心者はクッキングペーパー使って。この上にお玉１つ分のタネ乗っけて、まな板から天ぷら鍋に滑り込ませるんだ」
「僕がやってみていい？」
「ああ、いいぜ」
　望月に教わった方法で、澪は試しに海鮮かき揚げをひとつ作ってみる。
「これなら、それなりの形になるし、揚がれば勝手にペーパーは取れるから」
「手間をかけずに、たくさん作れそうだね」
　自分が作ったかき揚げを見て、おねーさん達が美味しく食べ「かき揚げ美味しい♪」と喜ぶ姿を想像する澪。
「これ、お土産に持っていくことできない？」
　お持ち帰りしたいのは、澪以外にも何人かいるだろう。
「お土産？　売り切れたらごめんなー、だな。そん時は、俺様が代わりのもの作るから。コーンかき揚げとか」
「それも美味しそうですが、お店に出すのは海鮮かき揚げですからね」
　コーンかき揚げを食べてみたい璃亜は、望月に作ってくれますか？　と頼んでみた。
「ああ、いいぜ。材料が余ったらだけど」