タオルケットが空を舞う｜リアクション

タオルケットが空を舞う

　ぼくら「ねこ」みたいなえがおのおねーさんがとんでいたよ。
　あのあかいひらひらしたのはなんだろう？
　円おねーさん、ぼくあっちいきたいっ！

（すっごく気持ちがいいなぁ）
　にゃーくんを追いかける形で共に飛んでいた桜庭円はにゃーくんの反応に目を丸くした。視線の先では修と護、ジェレミアと真央の４人（＋１匹）が集まってのんびり空の旅を楽しんでいる。にゃーくんが楽しそうに向かっているので、円も寄り添う。
「やっほー♪　皆も飛んでたんだ～」
「偶然、ここで会いましてね」
　ジェレミアがそういって微笑めば、傍らにいたすみがにゃーくんに反応する。勿論、にゃーくんも遊びたいらしく、すみの方へ。どちらからとも無く猫パンチで遊びに誘い合い、その光景に真央はめろめろになっていた。
「桜庭さんもジェレミアさんも、後木さんも楽しそうだねっ」
「うんっ！　すっごく気持ちいいし、楽しい気分になっちゃう！」
　護と円が笑い合い、修やジェレミアも幸せな気分になる。と、そこで真央が渡りに船とばかりにダンボールから例の褌を取り出した。
「そ、それは……！」
「にゃっふぅ！　真央ちゃん、褌の『運命の主人探し』のお手伝い中なのだ！　よかったら使って欲しいのだ～」
　と、赤褌を手渡す真央。因みに猫鳴館の住人である護はその箱を見ただけで解っていた。
「う、後木さん……相変わらずだねぇ」
「やっぱりそうなのか」
　護の言葉に修が妙な納得を覚えていると、円とジェレミアはすみとにゃーくんが空飛ぶ褌に興味を示し、じゃれ付こうとしている姿を目撃した。

「「～～～～～～～っ？！」」

　何故だろう、すっごくじゃれている姿は可愛いのに、妙になんかこう……つっこみたくなるというか、なんともいえない気持ちになる一同（真央以外）はとりあえず無言でその光景を見守った。

　おともだちもおそらをとんでた
　ふわふわ、気持ちいいねー
　いっしょにあかいひらひらであそんだよー！

　にゃーくんとすみは、じゃれあいながら空の旅を楽しんでいた。しっぽをぴんっ、とたててふわふわな物を追いかけて。愛らしい子猫た２匹は、優しいもれいび達に見守られのびのびと遊ぶのであった。

（うわぁ、いい眺めだなぁ！）
　普堂しおりはタオルケットの端をマントのように結び、寝子島の中で気になった場所を見て廻っていた。このまま飛んで乾かそうと考えたらしい。
　風に乗って飛び、その途中で地上へ声をかけたり手を振ってみたが誰も気付かない。そこから「見えていないのかな？」と推測する。
（意外と私達が気付いてないだけで、寝子島では毎日こんな不思議な事が起こっていて。もしかしたら、それが『フツウ』なのかな）
　ひんやりとしたタオルの感触にくすぐったさを憶えつつ、しおりは瞳を細めて微笑む。そうしながらも上手くコントロールすればあっという間に目的地が見えてくる。寝子高のグランドを見れば、部活動に励む者たちの姿が見え、猫鳴館へ近づけば菜園で草取りに精を出したり、楽しげに語らったりする猫鳴館生が見えた。落神神社に行けば昆虫採集だろう子ども達の姿を見つけほほえましく思った。三夜湖はたっぷりと水を湛え、陽光を受けてキラキラと輝いて眩しく、それでも泳いだら気持ちよさそうだな、とくすり。
　飛びながら地上の様子を携帯電話のカメラを使って撮影してみる。風の影響でブレたり、うまくピントが合わなかったりもしたが、いい物が撮れて思わず笑みがこぼれる。南風に乗りながら深呼吸すれば、夏の香りに混じって、柑橘類の爽やかな香りもしおりの小さな鼻を擽った。鼻腔いっぱいに広がる香りは、小さな悩みを吹き飛ばすほど清々しく、心もまっさらになるような気がした。
（そうだ、どうせなら……）
　しおりが一点を見据える。それは九夜山に長く長く生きる寝子杉。行ってみよう！　と意気込んで飛べば、あっという間に到着だ。間近でみる寝子杉はとても大きく、なんとも言いがたい感動が胸に沸き起こる。
（樹齢四千年かぁ……すごいなぁ！　当時の寝子島にも人や神様が住んでいたのかな？　どんな暮らしをしていたのかな？）
　数学の宿題はきっと無いよね、羨ましい、なんて呟きつつ暫くの間、遠い昔に思いを馳せるしおりだった。