タオルケットが空を舞う｜リアクション

タオルケットが空を舞う

転：楽しもう、空でのひととき

　さて、その頃。のんびりと空を飛んでいた白石妙子は途中でであった恵御納夏朝と牛瀬巧、あゆむ親子と雑談しつつ空を飛んでいた。
　途中で後木真央とすれ違い、何故か赤褌と一緒に飛んでいる姿が奇妙だったが、とりあえず気にしないで置こうと思う一同。
（うぅ、これは見られたら恥ずかしいわ）
　妙子はいつの間にか乾いた下着をポケットに隠し、遠ざかる真央を見送る。夏朝は傍を飛んでいる猫のパペット・ハルくんに笑いかけながら口を開いた。
「ハルくん、凄い眺めだねぇ」
　本当は景色をスマートフォンで撮りたい所だが落とすのが怖いので止めた。その分、自分の目に焼き付けようと夏朝は眼下や周りの景色を楽しむ。
「本当にそうね。それに、風に乗るってとっても気持ちいいわ」
　そういいながら思い浮かんだのは、自分の夫の笑顔だった。どこか胸の奥がくすぐったくなってうっすらと頬が赤くなる。
（ふふ、まるで気ままですぐどこかへ飛んで行ってしまうあの人みたい）
　同時に夫から付けられた『タコ』というあだ名も思い出す。それは風に乗る『凧』の事ではなかったのだが、今はその意味のほうがしっくりきて、思わず笑みを零す。
　傍らでは牛瀬親子がのんびりと空中遊泳を楽しんでいた。並んで話す姿は夏朝と妙子をほっこりとした気持ちにさせる。しかし、不意に巧は「ん？」と辺りを見渡した。
「どうしたの？」
　夏朝が問い、妙子も不思議そうに見る。と……何者かが叫ぶ声が聞こえてくる。そして、空を切るように飛ぶ影が１つ。その上で屑利執は落ちまいと一生懸命になっていた。というのも、パニックになった沼田さんが叫んだ事が原因か、恐怖心が原因か、けっこう早い速度で飛んでいたのだ！
「わぁああああっ？！　怖い、怖い、怖い～～～っ！！」
　空飛ぶおっさんと化した沼田さんは、高所恐怖症だった。その為飛んだ事でこのありさまだ！　執もまた「なにこれこわい！」と愕然としている。当初は他にどんな物が飛んでいるかのんびり見るつもりだったのだが……。
「うわぁっ！」「きゃああっ！」「危ないっ！」
　目の前にいた空飛ぶ人々にぶつかろうとした執だが、かくんっ、と下がって事無きを得る。再び高度を戻し、突っ走っていくその様子を、巧と妙子、夏朝は見送る。
「……しかし、危なかったなぁ。白石さん、恵御納さん、あゆむ、大丈夫だったか？」
　咄嗟に庇った巧がそう問えば、妙子と夏朝は頷く。あゆむは不思議そうに飛んでいく執と沼田さんを見送り、ばいばいと手を振っている。
「……まさかおじさんも飛ぶとは思わなかった」
　夏朝がぽそっ、と呟けば巧は思案顔で「なんで上に屑利くんが乗ってるんやろ」と首をかしげるのであった。

（さっきのは担任じゃないかっ！！）
　一方、執も巧の姿を捉えていた。不意に担任と目が合った気がし、冷たい汗が背中に流れる。けれどもそれ以上に気になったのは沼田さんの行き先だ。自転車並のスピードで突き進む沼田さん。相変わらず怖がって悲鳴を上げている。
「……一体どこまで行くんだろう。……はっ？！」
　ふと過ぎったのは、このまま沼田さんの家（鎌倉）まで行ってしまうのでは？　という事。これってまずいよな、と思いながら執は沼田さんの背中で呆然となるのだった。