タオルケットが空を舞う｜リアクション

タオルケットが空を舞う

結：楽しい時間も、おしまい

　寝子杉の元を離れたしおりは砂掛谷から展望台あたりを経由し、猫又川と桜川に沿って桜花寮へ帰っている途中だった。
（うーん、今日は楽しかったっ！　……あ、でもまだ数学の宿題が……）
　思い出してちょっと気落ちしていると、どこからとも無く男の人の絶叫が！？　何事かと思い身を捻ったしおりの視界に入ったのは、禿げたおっさんに跨った青年が自転車並みのスピードで通り過ぎていく瞬間。同時に起こる風でバランスを崩したしおりは思わず目を瞑る！
（『猫間飛行』に頼るしか……？！）
　咄嗟に猫アイテムを探そうとするが、タオルケットが解けてしまう。間一髪で掴むも、身体は大きく揺れ、視界がぶれる！　少しうろたえてしまうしおりであったが、ふと、その手を掴む者がいた。
「大丈夫？」
　声がする。良く見ればそれは子ども達の様子を見た後、近くを通りかかった妙子だった。しおりが頷けばよかった、と妙子は安堵の息を吐いた。
「ありがとう、ございますっ」
「お互い、気をつけて帰りましょうね」
　そう挨拶を交わして別れる２人。しおりは程なくして桜花寮の屋上へ、妙子は自宅へと舞い降りるのであった。

　一方夏朝はパペットのハルくんと一緒に寮へ戻る所だった。そこへ現れたのはダンボールやひらひら舞う赤褌と飛ぶ真央。
「にゃふっ！　夏朝ちゃんも飛んでたのだ？」
「そうだよ。すっごく気持ちよかったっ♪」
　嬉しそうに笑う彼女に真央はよかったら、と何故か取り出す赤褌。先ほども修達に配ったのだがここでも普及に勤しむらしい。
「使ってくれると、この褌も喜ぶのだ。では、真央ちゃんは更にユーザーを増やしに行くのだ！」
　そう言って風に乗る真央だが、その向かう先は猫鳴館。暫くして彼女が「褌の主人は……既に全猫鳴館寮生に確定デスティニーだったのだ？！」と頭を抱えて叫ぶのはここだけの話である。夏朝は渡された赤褌を返す事が出来ず……暫くの間悩むのだった。
　その後、桜花寮屋上へ急降下するハルくんを慌てて追ったためバランスを崩した夏朝だったが、落下したもののそんなに痛くない事に気づく。良く見ればタオルケットやハルくんが夏朝に寄り添うようにゆっくりと舞い戻った。
「おかえり。……びっくりしたけど、本当に楽しかったよ。ありがとう」
　バスタオルとハルくんを抱きしめ、夏朝はそっと呟いた。顔を上げれば、一足先に到着していたしおりが手を振っている。夕暮れに染まる屋上で、２人の少女はにこりと笑いあうと楽しげに室内へ戻って行った。

　因みに、細く裂かれた真央のタオルは掃除用モップの材料となった事を蛇足的に付け加えておく。

　猫鳴館。修たちと楽しいひとときを過ごした護は一足先に戻っていた。タオルケットをたたみ、抱きしめると微かに柑橘類の香りがお日様の匂いに混じって香ってくる。どこか安らぎを覚えながら思い浮かべるのは、みんなでとんだ青い空。
「ふふ、宿題がんばれそう……♪」
　護は小さく呟いて自室に戻るのであった。

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