タオルケットが空を舞う｜リアクション

タオルケットが空を舞う

　　所変わって桜花寮。気分転換（数学の宿題という現実からの逃避とも言う）の為にタオルケットを洗濯した普堂しおりは、屋上でそれを干している所だった。因みに柄はというと『またたびドルフィンズ』のマスコットでイクチーと言う。イクチオサウルスがモデルらしい。ぎょろりとした大きな目にギザギザの歯がついたくちばし。妙に愛嬌があるイクチーに、しおりはにっこり微笑んだ。
「風が気持ちいいね～」
　そういって空を見上げていると……強い風が吹いた。それに煽られ、飛ぼうとするタオルケット。
「危ないっ！」
　しおりは咄嗟にタオルケットを掴んだが、同時に憶えたのは浮遊感。何故か浮いている自分とタオルケットに不思議そうな顔をした。そうしている間にもタオルケットごとふわふわ飛んで寮を離れていく。
（いい天気だものねぇ、タオルケットも空を飛びたくなったのかな？）
　自然と笑みがこぼれていくしおり。鼻を擽る柔軟材の爽やかな香りに口元がほころぶ。
「太陽に近いほうが、良く乾くかもしれないね。試供品の柔軟材の香りもいいし、ふかふかになるといいなぁ」
　そんなことを呟いていると、見覚えのある女の子も空を飛んでいた。いつもつれているパペットを追いかけてなのか、恵御納夏朝もまた飛んでいるのだ！

　しおりが飛ぶちょっと前。他の洗濯物と一緒にパペットのハルくんも干していた夏朝。取り込もうと屋上へやってきたのだが突如強い風が吹く。ハルくんそれに乗ってふんわりと飛んでしまっていた。突然の事に愛らしい口をぽかん、と開けてしまう夏朝。
「ハルくんも、空を自由に飛びたかったのか、な……」
　良く見れば、他の洗濯物（主にタオルやタオルケット）も飛んでいる。しかも、タオルケットに人が捕まっているではないか！
「皆も空を飛びたかったのかな？　……ってそうじゃないよっ！」
　夏朝は自分が愛用するオレンジ色のタオルケットを掴むと魔法の絨毯のようにのって空を飛ぶ。ハルくんを捕まえるのではなく、一緒に飛べたらという思いと共に夏朝は空を目指した。するとどうだろう！　タオルケットはパペットに並んだではないか。
（念じたら、うまくいったっ？！）
　夏朝が不思議そうにしていると、いつのまにか傍らにはしおりがいた。２人は顔を見合わせて笑い合う。
「なんだか、風が気持ちいいね！」
「このまま空の散歩にいこうかな？」
　2人は暫くの間、共に飛ぶのであった。

　一方、星が丘寮。その一画では猫たちの敷物になっていた大きな夏蒲団が干されていた。猫の毛を取って洗ってもらったそれは実にいい匂いがした。
（こんなものかな）
　ふう、と一息ついた八神修は夏蒲団にふれつつ、穏やかな気持ちになっていた。軽い疲労感もあいまって少しうとうとしてしまう。
（ぽかぽかお日様きもちいいな。いかん、眠ってしまいそうになる……）
　どこかほんわかした気持ちになる修。その傍らでは猫たち数匹が遊んで欲しいのか集まっていた。しかし、暫くしてその声が小さくなった事に気づく。
（あれ？）
　気がついたら、夏蒲団が空に浮かんでいた。突然の事に最初はびっくりした修であったがやがて好奇心のほうが先に来た。
「これはコントロールできるのかな？　やってみよう」
　彼はふと何かを思いつき、寝子島の西端を目指してみた。どこまでいけるか気になったのである。同時に速度もどれぐらい出るかやってみる。と、速さは自転車ぐらいまで出せる事がわかる。気がつけば寝子島西端へ来ており、眼下には海が広がる。けれどもある程度まですすむとくるり、とターンしてしまった。どうやら寝子島から離れる事はないらしい。
「ならば今度はどうかな？」
　修が空を見上げれば、タオルケットはさらに上へと飛んでいく。暫く行くとタオルケットは上昇をやめて緩やかに降りていく。その高さから呼吸が苦しくならないあたりを飛ぶのだな、と修は考えた。