タオルケットが空を舞う｜リアクション

タオルケットが空を舞う

　時同じくして旧市街のとあるアパート。洗濯物を干していた桜庭円は相棒の子猫、にゃーくんと共に青空を見つめていた。
「うーん、洗濯日和というには暑いけど、直ぐ乾きそうだねー」
　円が傍らのにゃーくんをみると、まだ濡れているバンダナを前足でちょんちょんしている。どうやら、つけて欲しいようだ。藍染体験の時に作った物で、にゃーくんのお気に入りのようだ。
「うーん、乾かしてからね？」
　円がそういうものの、にゃーくんは「つけて、つけて！」とおねだり。しかたない、と円は試しに付けてみる事にした。慣れた手つきで首に巻くと、ひんやりした感触ににゃーくんは瞳を細める。
「ね？　冷たいで……」
　しょ？　と言おうとした時、目の前で事件は起こった。にゃーくんの身体がふわっ、と浮かび上がったかと思うと、ふわふわと飛んでいってしまったのだ！　初めあっけに取られた円であったが、にゃーくんの事が心配に成った。
（事故があったら大変だし……）
　と、部活用のタオルを首に手早く巻く。するとどうだろう！　円もふわりと浮かび上がったのである。
「……あれ？　なんか、楽しい……！」
　先を行くにゃーくんは不思議そうにきょろきょろしていた。円は「大丈夫だよ～」と声をかけると、ふわふわと相棒の後を追う。にゃーくんに追いついた円は妙に楽しそうなにゃーくんに優しい笑みを浮かべ、頭を撫でてあげた。
「なんや、桜庭さんやないか！」
「その声は……巧せんせー！」
　声に振り返ると、そこにはタオルケットをビート板のように掴んで飛んでいる牛瀬巧の姿があった。傍らの小さな男の子もまた同じようにして飛んでいる。息子のあゆむだ、と巧が紹介すれば、円とあゆむは互いに自己紹介。
「なんかけったいな事になっとうけど……こいつも神魂の所為なんかなぁ？」
「ボクも同じ事思ってたんだ」
　円の言葉に合わせるように、にゃーくんが楽しそうに一声。あゆむはその声に目を輝かせた。
「わぁ、猫さん！　にゃーにゃ、にゃーにゃ！」
　にゃーくんに手を振るあゆむの頭を優しい眼差しで撫でてやる巧の姿に、円は思わず笑みを零した。

　そして星が丘。晴天につられてタオルケットを干していたジェレミア・ベルトーニは傍らで遊ぶ灰色の子猫に優しい笑顔を向けていた。本来猫が苦手とする柑橘類の匂いがするのだが、あまり強くないからだろうか、子猫（名前はすみという）は無邪気にも飛び掛ったりしている。
（かわいいなぁ）
　そんな子猫の頭を撫でていたジェレミアであったが急に強い風が吹く。音を立ててタオルケットが落ち、慌てて拾おうとするジェレミア。しかし、タオルケットは風にのってふわっ、と浮かび上がってしまった。それに追いすがるようにすみが飛びつく。
「にゃっ！」
「えっ？　乗れって言っているのかい？」
　子猫はどこか嬉しそうに目を細め、ジェレミアもまたタオルケットの上へ。ふわふわと浮かび上がるタオルケットの上、彼がみたのはどこか自慢げな子猫の顔だった。
「すみ、『どうだ、すごいだろ』と言わんばかりのドヤ顔なのは何故なんだい？」
　思わず苦笑しつつも優しく頭や喉を撫でてあげれば、子猫は満足げにごろごろと喉を鳴らす。甘えたいのかころん、とお腹を見せるすみに、ジェレミアの瞳も柔和な光を宿すのだった。

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