フツウを脅かす冷たい風｜リアクション

フツウを脅かす冷たい風

●●●思いすら、吹き荒れる●●●

　最大風力と風切が言った、廃墟を大きく揺らすほどの風を不二夫は耐えきった。
　実は彼だけの力ではなく、後ろに居た若菜の防御結界が大きな役割を果たしていた。
　三角状に防御結界を張り、頂点部分を風切に向かって設置して、風を上手く捌いたのだ。

「上手く、行きました…！」

　彼女のろっこん【Bai sema】が役に立った、と少しだけ誇らしげな表情の若菜。
　不二夫は結界の頂点となる鏡の破片を守り、万一にも結界が瓦解しないようした。

「所詮弱いものいじめが趣味の連中にゃ、本気の出し方もしらねぇみてぇだな？」

　その不二夫の挑発を受け、しかし、風切はまだあきらめてはいない様子だった。
　というのも、風を放出すると同時に自分も後ろへの移動を計り、成功していたからである。

「えへへ、きっともっと強く出せるよ！　お姉ちゃんのじぇっとも真似できたもん！」

　そう、マリナが攻撃をするときに発していた「JET」の原理を見よう見まねで実現したのだ。
　それのためにマリナの攻撃は風切に届かなかった。

「オーマイガッ。敵にミソを送ってしまうとは…」
「塩、な」

　落胆しているマリナに、正確に突っ込む刀。
　ここの状況だけ見れば、不利な状況だろう。
　しかし、先ほどの大きな風を出したとき、修達が上っていくのを刀は見ていた。
　だから、冷静に、風切の意識を集中させる事にする。
　だが。

「かぜきりー！　ぼく上に行ってくるね！　新しい駒ができそう！」

　予定通り屋上へと誘導したのだろう、二階からの連絡が入ってしまった。
　そして、風切は気がつく。上に新しい駒ということは、新しい人間が居ると言うこと。
　目の前に相手をしているような炎使いが居る可能性を。

「だっ…！」
「っせるかぁー！」

　それを知らせようとした風切に同じく「JET」の要領で飛んできた斗南が風切の体を捕らえる。
　壁にまで追いやり、炎がでていない手で胸ぐらをつかみ、頭突きをする。
　その衝撃に風切は頭を押さえ、かきむしる。

「今の何か、言わせるとメンドそうだったからな」

　斗南はそう言うと、加えて炎をぶつけようとする。
　が、それは叶わずに飛ばされてしまう。
　頭をかきむしっていた風切は風の障壁を再構築していたのだ。

「腕と手の動きから風を発生させている、のかな」

　若菜が推測を語る。
　ろっこんを発動する時はいくつかの種類があり、条件が揃わなければ発動することができない。
　風切の場合は体の動きを機転にしているのでは、と語る。

「へぇ…小難しいことはわからねぇが、いい目を持ってんじぇねぇか」

　そんな若菜を慣れない笑みを作りながら不二夫は褒めた。
　若菜の作り出す不思議な安心感が、妙にくすぐったく感じていたのだ。

「ナイスデス！　ワカナ！　なら、カタナ！　トナミ！　私が気を引きマス！」

　まだ頭を押さえてうずくまっている風切に、JET！と叫びながら突撃するマリナ。
　心得た、という感じで動き始める刀は、マリナの動きを阻害しないような位置を取る。
　吹き飛ばされた衝撃から立ち直った斗南も刀と逆方向に動き始める。

「もぉー！」

　風切は言葉にならない怒りを腕に乗せ、風を放出させる。

「…え？」

　はずだった。
　移動し始めたばかりの距離、フツウなら確実に届かないはずの刀の手が風切の腕を抑えていた。
　彼のろっこん【加速】である。
　撃鉄が落ちるイメージをすれば、名の通りに自分が加速すると言う、シンプルだが使い勝手の良い能力だ。

「詰み、だな」
「う…うるさいうるさい！」

　風切はなら、と逆の手を動かそうとして、不二夫に押さえられている事に気がつく。
　いつの間に、と思った所で状況は覆しにくい。
　両腕に力を込めるものの、全くと言っていいほど動きはしない。

「ったく、手間かけさせやがって」
「悪い事はしちゃだめだよー。どうしてこんな、人を凍らせるような事したの？」

　不二夫はしっかりと、しかし風切の腕を壊さぬよう、機械仕掛けの手で押さえている。
　後ろに居る若菜は、彼をなだめるように話しかける。
　JET、とマリナは風切の近くで降り立ち、斗南は手の平から炎を出す。

「グッチョブカタナ、フジオ！　さて、どうしてやるデスか…」
「人にしたことは、自分に返ってくる。覚悟は良いな？」

　風切の表情は怒りから怯えに変わっていき、やがて言葉にならない叫びをあげた。
　斗南は手にする炎とは裏腹に冷たい感情のままに焼こうとする。

　しかし、何の前触れもなく、風切が氷漬けとなった。

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フツウを脅かす冷たい風

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