大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～｜リアクション

大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～

●停滞空気

「さて……頃合かねぇ？」

　撤退が始まったのを見て、桜崎巴は咥えていたシガレットチョコを吐き捨て、金属バットと金属缶を握って走り出した。

「ほーらあんた達、死にたくなけりゃとっとと逃げな！」

　手にした金属缶の中身――ガソリンを半魚人たちとの間にぶちまけ、火を放つ。
　激しい爆音と共にたちまち炎の壁が巻き起こり、熱風が吹きつける。
　半魚人のいくらかは火にまかれ、火傷を負ったり、火勢に圧倒されて叫び声をあげながら逃げ惑う。

「あー、あたしだ。奴らの耐火性だが……ちっ、完全に食い止めるには火が足りねぇか。こうなりゃ直接殴って足止めするぜ」

　手にした携帯で祭に成果を報告しようとするが、それでも炎の薄いところから回り込んでやって来る半魚人の影を見て、巴は金属バット片手にその集団に立ち向かう。

（無節操な暴力に対抗できるのは……暴力しかないさ。それも、いっとう優秀な知性に率いられた、ね）

　半魚人たちの数の暴力に撤退を始めたメンバーが、浜辺を抜け出したり、鋼成のトラックに乗り込めるようにと、巴は最後まで時間稼ぎの大立ち回りを行う。

　トラックを囲んでの激戦の中、鋼成はろっこん『千里眼』でもれいびやカラスの存在を探す。
　周辺では多くのもれいびたちが入り乱れて戦っていて、その反応がめまぐるしく、特定の物を探し出すのは難しい。今はとりあえずシーサイドタウンへ撤退するのに取り残される者が出ないように、見付けた反応の方向に向かって声をかけるのが精いっぱいだ。

「九夜山方面部隊の戦力が不足しているな……シーサイドタウンで食い止められなければ、先は厳しいな……」

　トランシーバーで各方面からの報告を聞き、中継していた祭は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、次の手を考えていた。
　海岸偵察部隊は既に充分にその役割を果たし、敵の生態に謎は多いものの、攻撃が有効である事は分かった。後は後退しながらシーサイドタウンに誘いこんで迎撃する――
　九夜山の変電所に誘導して感電を狙うには人員も物資も不足している。できることならシーサイドタウンで撃破する事が望ましいと思われた。

　祭は各部隊と連絡を取り合い、その旨を伝えると、傍らに止めていた自転車に乗り込み、自らも次の戦場――シーサイドタウンへと向かった。