大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～｜リアクション

大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～

●魂の雄叫び

「どうだった天衣……は？」

　アウトレットの一角でトランシーバーで連絡を取り合う御手洗孝太郎も『寝子島☆美食クラブ』の一員である。

「せっかくの撮影会だったってのに、異世界に引きずり込まれてバケモンと戦わされるなんて……
　本当に現実感がねぇよなぁ……」

　ボリボリと頭を掻けば白い物が零れ落ちる。とはいえ、美食クラブの全員が彼のように汚く、悪臭を放っている訳ではないと、（他の）美食クラブメンバーの名誉のためにも断っておかねばなるまい。

　それはともかく、彼もまた他の美食クラブのメンバーと同じように軍服を着込んでの撮影会に参加していて、この騒ぎに巻き込まれたのだ。

　先行する祭が巨大サンマと半魚人の群れに対抗するチームのまとめ役として、トランシーバーやと自転車、そしてろっこんを駆使して情報収集やその伝達に駆け回ってくれているお陰で、孝太郎や他の美食クラブメンバーも、その情報によってこの異常事態の下であっても、なんとか混乱せずに落ち着いて事態を把握できていた。

　孝太郎の横に並ぶ如月庚も美食クラブの仲間である。彼の装束は白い海軍風。この騒ぎに巻き込まれる前は、クラブのメンバーで集まってのコスプレ撮影会をしていたのだが、こうなると彼らは本当に防衛作戦に従事する軍人のように見えた。

「『雑魚散らし』、『デカブツの足破壊』両方やるってが前衛の辛いところだな……
　覚悟はいいか、俺は出来てる」

　庚は孝太郎と視線を交わし、互いに無言で頷き合う。
　彼は同じ美食クラブの孝太郎と共に『巨大サンマ転ばせ組』として、その攻撃のチャンスを狙ってアウトレットに身を潜め、力を温存していた。

　その時、轟音と共に二度三度と激しい揺れが建物を襲ったかと思うと、彼らが潜んでいた場所のすぐ近くの壁がバラバラと土煙を上げながら崩れ、開いた穴から無数の半魚人がなだれ込んできたではないか。

「くそっ、タイミングが悪い！」

　慌てる二人だが、あっという間に半魚人たちに取り囲まれ、追い詰められてしまう。

（どんな裏があろうがこれだけはわかっている……寝子島の運命はこんな怪獣なんぞに、
　否……この状況を作った野郎の好きにさせるもんじゃねぇ……）

　庚は無鉄砲な不良だが根に一本の筋は通しているつもりだった。もれいびになろうが心は人間。人間の意地をテオやカラスに見せつけてやるつもりだった。こんな所で終わるわけにはいかない。

「全ては俺達が決める事だ……違うか！　違うか！　違うかぁ！」

　叫びながら額の傷痕を指でなぞり、ろっこん『蒼穹』を発動させる。神魂の力が庚の右腕に宿り、蒼く輝く。そのパワーは岩をも砕き、半魚人を蹴散らしながら血路を開く。

「雑魚散らしは俺に任せて、行けぇ！　御手洗ぃ！」

　いくら庚がいくつもの修羅場をくぐり抜け、喧嘩慣れしているとはいえ、あまりにも数の不利がある。短時間の混乱は作り出せても、それ以上に戦局をひっくり返すのには無理がある。
　だが――

「悪いな。でけぇサンマを土産に持って帰ってやるから、許してくれ」

　孝太郎は庚の想いを察して頷くと、彼が切り開いた道へと走り出す。
　
「美食クラブをぉ……舐めるなぁーーー！！」

　半魚人の包囲網を駆け抜ける孝太郎の背に庚の魂の叫びが響いた。