幸せのブルー・ブルー・バード｜リアクション

幸せのブルー・ブルー・バード

【もふもふと青い鳥】

　その日、小学生の双葉由貴くんは朝早くからリュックに飲み物とおやつを詰め込んで、九夜山にやってきていました。
「鳥っていえば、だいたい木の枝にとまってるよな」
　鳥の囀りに耳を澄ませ、由貴くんは道を進んでいきます。
　彼は青い鳥に愛犬ゾーイの病気を治してもらうためにここにやって来ていました。
　と、その途中、由貴くんは先日海辺で出会ったある人物の姿を発見します。
（……青い鳥、どこにいるのかな？）
　ぬいぐるみの『もふもふ』を抱いて空を見上げるその少年の名前は飛吹勘助くん。
　今年の二学期から寝子高に転校することになる高校一年生でした。
　もっとも由貴くんはそんなことは何も知りません。
　ただ『うさぎのぬいぐるみの人』という認識で、彼は勘助くんに「よう」と声をかけます。
「お前も青い鳥探しか？」
「あ……う、うん……」
　急に声をかけられた勘助くんはちょっぴりオロオロ。
　その様子は年下の由貴くんから見ても少し頼りなさげです。
　そんな勘助くんを見て、由貴くんはいいことを思いつきました。
「よし、だったらお前も来いよ。一緒に連れてってやる」
「え……？」
　いきなりの言葉に驚く勘助くん。
「あ、俺は由貴。双葉由貴っていうんだ。お前は？」
「あ……お……俺は、勘助……飛吹、勘助って言います……」
「よし、じゃあ行こうぜ、勘助。あ、い、言っとくけどな、俺が一人の山道は怖いからとか絶対そんなんじゃないんだからなっ！」
　こうして二人は一緒に青い鳥を探すことになったのでした。

【幸せを覗くファインダー】

　同じ頃、九夜山のまた少し別の場所には由貴くんのほかにもう一人小学生がやってきていました。
「幸せの青い鳥さんなんて、すてきだよねぇ」
　首から提げたお気に入りの二眼レフを手に素敵な笑顔を浮かべる彼女の名は椎名あさひさん。
　とっても元気な小学三年生の女の子です。
「青い鳥ねえ。そういえばうちのかみさんもその話が好きでねぇ」
　彼女の後に少し遅れてついてくるのはお友達のピーター・ビアズリーさん。
　二人はカメラという共通点から繋がった年の離れたお友達同士です。
「もし家の庭に飛んできたらって話になっちゃって――」
「ほらほら、ピーターおじさんはやく行こうー！」
　あさひさんはピーターさんの話を遮って、ぐいぐいとその手を引っ張ります。
「こらこら、あさひ君。そんなに慌てたらケガをするよ」
　二人はときおり見かける美しい花や可愛らしい動物の写真を撮るなどしながら、あくまでもマイペースに青い鳥を探していきます。
　と、その道すがら、あさひさんは白い眼帯をしたとてもきれいな女の人に出会いました。
　彼女の名は大天使天吏さん。彼女は鳥の分布を調べるために九夜山にやってきていた寝子高の二年生です。
「お姉さん。青い鳥さん知りませんか？」
「……青い鳥？」
　天吏さんは灰色の瞳であさひさんをじっと見つめると、おもむろにその唇を開きました。
「オオルリ――スズメ目ヒタキ科の小さな鳥。雄は瑠璃色で美しく、澄んだ声で歌う」
「……え？」
　物静かに見えた天吏さんが突然一方的に喋り始めたので、あさひさんはびっくりしてしまいます。
「カワセミ――ブッポウソウ目カワセミ科。スズメより大型で、尾は短く、嘴は鋭くて長くそして大きい」
　それだけ言いきると、そのまま天吏さんは金色の髪を翻してどこかへ去っていってしまいました。
　あさひさんはそんな背中をしばしぽかんと見送ったあと「すごーい」と小さく感嘆の声を漏らしました。
「あさひ君、どうかしたのかい？　それに今の女の子は？」
　あとからやってきたピーターさんにそう訊ねられるも、あさひさんはしばらく呆然と彼女が消えていった先を見つめていました。

このページにイラストを設定する