ろっこん・トラブル・シューティング｜リアクション

ろっこん・トラブル・シューティング

【寝子島シーサイドタウン】

「ん、なんだ？」
　大きなクラクションとキーッというブレーキ、そして何かを引きずる音。平和な街を震わす轟音の連続が、配達の帰りだった新井すばるの耳をつんざいた。
「向こうの交差点かな？」
　旧市街の魚屋「魚新」の長男坊であり、生粋の寝子島っ子。地元で起きるざこざにはつい首を突っ込みたがる性分だ。

　現場は見晴らしのいい交差点。小さめサイズのトラックが歩道の植樹に突っ込んで横転している。運転手らしき男性はそのすぐそばで頭を抱えていた。どうやら怪我はしていないらしい。それだけでも一安心だ。
「ど、どうしたらいいんだああああ」
　錯乱している。見れば彼の足元では発泡スチロールの箱がひっくり返り、中から氷や水と一緒に魚が数尾飛び出していた。
「これは」
　魚屋のせがれの本能がうずく。
「新鮮なサンマだね。まだ時季は少し早いけど、十分脂がありそうだ」
　水揚げして瞬時に冷凍、港から運んできたてと見た。
「一体これをどこへ？」
　聞けば、何でもこれから寝子ヶ浜海岸でテレビロケがあり、そこでこのサンマを食べてもらうのだそうだ。
「寝子島のサンマをアピールするチャンスだってのにいいい、なんてこったあああ」
　また頭を抱える運転手。漁港の広報部員らしい。彼が錯乱していくうちにどんどん氷は溶け、サンマの鮮度は落ちていく。
「まあ落ち着こうか。実はボク魚屋だから、協力できるかもしれないよ」
「ほ、本当か、何か手はありますか！？」
　ここは僕に任せて。ニヤッと笑むすばる。
「とりあえず漁港と撮影スタッフに連絡してきてください」

　発泡スチロールにサンマたちを戻すと、野次馬を避けて道脇へ。
　さて。
　懐から一本取り出すと咥える。
　煙草ではない。ちくわだ。さらに二つ、左右の人差し指にはめる。
　すばるのろっこん「ちくわ☆ビーム」。念じるだけでちくわから冷凍ビームが出る。
（意外と便利なボクの特殊能力♪）
　倉庫の入れ替え、配達、着ぐるみを着ての営業。商売絡みだけではない。これまでにも様々な場面でこの力が活躍した。
（今回も大いに役立つねぇ。期間限定の大増量で放出だ）
　溶けかけていたサンマたちの時が止まる。

「おおおお、ありがとうううう！」
「ボクが魚屋の長男でよかったね」
「今の魚屋ってすごいんだなあ」
「さ、早く現場へ行こうか」
「そ、そうだった……ってあああ！　トラック横転したままだったんだ！」
　ぎっしり氷のしき詰まった箱を２人で海岸まで運ぶにはさすがに重い。
「タクシーか何かを手配するしか」
　と思っていたところへ一台のワゴン車が通りかかる。
「いやあ派手にやっちまってるなあ」
　バルシュ・コルテュルク。販売拠点の移動中だ。
「なんか困っていることがあったら手伝うぜ！」
　というわけで、バルシュの好意に甘えることに。
「おーけー海岸まで運べばいいんだな」
「私はここの後処理をしないといけないので、お願いします！　サンマ焼く係もよろしく！」

　というわけでサンマを乗せたバルシュのワゴン、撮影現場の海岸を目指す。
「ついでにテレビクルーや見物人にケバブを売り込めば知名度アップにつながるしな！」
　ポジティブ、もしくは楽観的なバルシュ。
「えーっとなんでボクまで」
　すばるもなぜか助手席に座っている。
「旅は道連れってことわざ、日本にあるだろ？」
「まーそうだけども（このサンマは魚新のサンマですって宣伝しちゃおうかな）」
　どちらも商売魂にかけては超一流だ。