ろっこん・トラブル・シューティング｜リアクション

ろっこん・トラブル・シューティング

【寝子島シーサイドタウン　ネコンビ】

　大男の一振りは重く速かった。
（あかん、避けきれん）
　服部剛があきらめたその目の前で、ゴッという鈍い音とともに男の動きが硬直する。
「！？」
　見えないバリアが剛を守った。
「剛君のおかげだ」
　剛と大男の間に割って入るように霧生渚砂が構えている。
「剛君が教えてくれなかったら、こんなに厚いバリアをピンポイントに張る余裕はなかった」
　渚砂のろっこん「フォース・ガーター」。伸縮自在のバリア壁、もう少し薄かったら破られていたに違いない。それほどに大男の腕力は凄まじい。
（そして続いては）
　大男が反動にひるんでいるうちに、次のバリアを発動させる。
（“薄くて脆い”バリアだ）
　手をかざしたまま大男へ突進する。大男の迅速な蹴りをバリアで受け流す。

　パリン

　ガラスの弾け割れる音。西野町かなえと四野辺蘭月が短い悲鳴とともに耳をふさぐ。
　その音は霧生深雪のろっこん「破壊の旋律」を目覚めさせるには十分な音量だった。
（相手も戦闘系なら）
　体中の筋肉と神経が猟奇的に喜んでいる。
（心置きなくヤれる）
　本当は説得することも考えていたが、すでに次の攻撃モーションに入っている容赦ない大男には無意味と悟る。
（戦い慣れしているな……長期戦はやっかいだ）
　一瞬で決める必要があった。
　相手の蹴りを受け流す。
「く」
　受け流すだけでも相当のダメージがある。
（この重さ。常人の出せるものじゃない。これが奴の能力か）
　それは利点でもあり欠点でもある。重さに偏りがあるということは、バランスを保つ重要な支点があるはずだ。
（見極めるのは簡単だぜ）
　軸は動かない。
（そこだ！）
　見抜いた関節を手刀で突く。
「ぐ」
　大男の姿勢が揺らぐ。立て直す前に深雪の連撃が飛ぶ。肉をえぐり骨を打つ。
（この音……この音だ……！）
　深雪は貪るように相手を壊し始める。
（いや……だめだ……俺はこの音に飲み込まれちゃいけない！）
　深雪の中のジギルとハイドが戦っている。
（そう、これは、人を守るためのものだ……！）

「深雪、もういいだろう」
　渚砂の言葉で動きを止める。大男の意識はほとんどなくなっていた。
「おおきに、深雪」
「ああ」
　剛の礼で、深雪のろっこんは解除された。
「しかしなんで剛君は彼が強盗の仲間だと？」
「こうやって……フード被って相手の目を見てると相手の心が見えてくるんや。もう５秒したら砂兄の思っていることも分かってまうで」
「ど、読心か！　それは少し恐ろしいろっこんだな」
　慌てて顔を隠す渚砂。

「あ！」
　かなえが叫ぶ。
「逃げられとる！」
　指差す先、店外の駐車場では気弱そうな少年がバイクにまたがり、金の入ったバッグを携えエンジンをふかしている。
「リボンどうやってほどいたんやろ？」
　首を傾げる蘭月。
「追うぞ」
　渚砂が駆け出す。
「そのリボンであの大男きつーく縛っておいてくれ」
「ラジャや！　ついでに今さらブザー鳴らしとこ」

「バイク追うんか！」
　あの速さについていくのはフツウはできひん。剛の一言に、のん気に応える渚砂。
「大丈夫だろう、寝子島にはフツウじゃない味方がたくさんいるから」
　蘭月とかなえを残し、渚砂と深雪、剛はバイクを追った。