ろっこん・トラブル・シューティング｜リアクション

ろっこん・トラブル・シューティング

【寝子ヶ浜海岸】

「うーん撮影まだ始まらないのかなあ」
　直射日光に目を細めながら、雨寺凛は海岸通りから撮影風景を見物していた。
「何か始まるの？」
　そこをたまたま通りかかったのが佐藤英二。
「これからロケがあるんだょ」
「へー」
　さほど興味無さげに応える英二。
「有名人が来てるの？」
「うーん。結構好きなミュージシャンが来るはずなんだけど……まだいないなぁ」
　撮影始まりまーす、というスタッフの合図からかれこれ１時間以上経過していた。
「なんかトラブル？」
「みたいだね、ちょっと見に行ってみようかぁ」

「ふ〜ん、テレビの撮影かぁ、でもトラブル発生中ぅ？」
　アフロヘアにヘッドフォン、眠たそうな垂れ目、奇抜な衣装に身を包んだ萬屋荒國も興味を抱く。
（ちょっと面白そうだから近づいてみよぉ）
　心の声も間延びしている、のんきな荒國。

　
「無事にサンマは届いたというのに……今度は出演者を届けるヘリが寝子島に入れないなんて……どれだけ災難続きなんだ」
　多忙な出演者は空経由で来る予定だったらしい。しかし未確認のヘリが飛んでいるせいで、空が緊急封鎖されたとのこと。撮影監督の顔がまざまざと青くなる。
「ふーさすがにこれはお手上げだな」
　新鮮なサンマを届けた新井すばるはちくわをタバコのようにして吹かす素振りを見せる。横ではバルシュ・コルテュルクが肩をすくめていた。
「スケジュール的にもう別日には延期できないし、このままでは寝子島のシーンは全面カットしか……」
　それは寝子島住民にとっては惜しむべきことだ。

「あ、あのー」
　事情を知った凛が前へ出る。
「お役に立てるか、分からないですケド」
　そう言って右耳を押さえる。
「私の声でごまかせませんかね」
「お、おおその声は……」
　まさしく、今日撮影に来るはずだったミュージシャンの声。凛のろっこん「虚偽声楽」は知っている声や音なら１００％再現できる。歌真似だってお手の物だ。
「これは使える！　顔のアップは別の場所で撮らせてもらって、ここは声だけで乗り切ろう！」
　トントン拍子に進む。
「代わりに画として地元の人との交流が欲しいな。誰か見物人の中で協力してくてる人がいるといいが」
　腕を組む撮影監督にまた凛が提案する。
「英二くん出てみない？」
「ええ、僕！？」
「焼きたてのサンマを食べるだけでいいみたいだし、美味しくてお得だよ！」
「いやあテレビとか恥ずかしいし……」
「まあそう言わずにさ、お願いだから、一緒にやろ！」
「いやあでも……」
「ヒトカラ好きなことみんなに言うよ？」
「うっ！」
　きょどる英二。彼の行きつけであるカラオケBOX「シャンテ」で凛は働いているのだ。

「よし、後は……サンマ焼きの準備だな！」
　ガスボンベにホース、そしてガスコンロが一台セッティング。その上に一畳分くらいの大きな網が乗る。
「コンロに対して、網が大きすぎない？」
　ぼそりとすばる。
「一度にサンマ２匹くらいしか焼けなさそう」
「そ、それでは駄目だ！　網の上にズラーッと！　サンマの脂がジュクジュクと焼ける！　香りまで伝わりそうな、そういう画が欲しいんだよ！」
　こだわる撮影監督。
「それなら〜うちがお役に立てるかも〜」
　切羽詰まった雰囲気の中、のらりくらりといった様子で荒國。
「なんだ君は！？」
「通りすがりのぉ、ええっと、サンマ焼き職人ですよぉ」
「サンマ焼き職人……！？　さすが寝子島だなそういう職人もいるのか」
　指先で四角形を作り、荒國の全身を舐め見る。手足に付けた小物がジャラジャラ鳴っている。
「な、なんとも破天荒なファッションだな。よし、君に任せた！」
　荒國のただならぬ気配に魅力を感じ、一発ゴーサイン。
「それではさっそく本番スタート！」