寝子島に台風がやってきた｜リアクション

寝子島に台風がやってきた

　さて、その当の財前華蓮は？
「いざ、出陣ですわ！」
　バンッと寮の玄関から飛び出す金髪娘。
　その格好は奇抜であった。
　真っ白なホットパンツに真っ白なチューブトップ。
　そしてその体に巻き付く謎の白いゴムバンドの正体は！？
「包帯ですわ！」
　露出したいのか隠したいのか、お前何がしたいんだよと思わず突っ込みたくなる衣装だ。
　なんでそんな衣装を持参しているのかという時点で謎である。
「大胆な格子状の衣装で悩殺ですの！　ってちょーぉぉぉぉい！？　風強すぎでしょうがムキィィィィィー！」
　せっかくキメたフルメイクが、ものの５分で崩れていく。
「ま、負けませんわ！　ぜぇ……はぁ……ここからは、私のステージですわ！」
　桜花寮沿いの道路に仁王立ちすると、力の限り彼女は叫んだ。
「私の話を聞きなさい！　オーッホッホッホ！」
　ろっこん発動キーワードを口にした財前の声が、拡声器を使った時のように、声が遠くまで響き渡るようになった！
「音響効果は抜群ですわ！　さぁ、ミュージックスタート！」
　ビニールで保護したCDデッキの再生ボタンを押すと、数年前に流行ったダンサブルな夏のヒットソングが大音量で流れてきた。
　だが財前の声はそれを上回る声量で華麗に踊りだす！
　キレキレである！

　♪YO！ HEY！夏がッ！ミーを刺激するゥー！
　　寝子島生まれの美の女神ィーッ！　セェーイ？

「うるさいなぁ、誰かね、こんな嵐の中で……」
　桜花寮に避難していた伊賀解理は、串田美弥子の部屋の窓から財前のゲリラライブを覗いていた。
「この雨の中、よく音響機材が無事だよね」
　まさかろっこんを使っているなんて思ってもおらず、串田は呆れながらも彼女のキレキレダンスに目を見張っていた。
　と、ここで爆発音じみた雷鳴と眩い閃光が、財前の真後ろの電柱に落ちた！
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ！？　あと３ｍずれていれば直撃でしたわ！　……ふふふ、天も私の美貌に嫉妬しているのですわね！？　オーッホッホッホ！」
　財前は前向きだった。
「こんなところで負けていられませんですわー！　次はラブソングですわ！」

　♪Ah～なんで好きになっちゃったの～？
　　私って目立ちたがり屋なーのーね～！
　　Ah～こんなにも美しい女神様は～！
　　寝子島中探してもー私しかいませんわ～！

　感情込めまくって歌い、ラブソングというかゴスペルじゃねーかというノリで歌い上げる財前。
「串田氏、串田氏。ちょっとこのライトで悪戯してやらないか？　モースル信号めいた点灯であの歌声を止めさせるんだ」
「う、うまくいくかな？」
　伊賀と串田は購入した懐中電灯を素早くオンオフを繰り返し、カチカチと光を点灯させながら財前の顔目掛けて照射、照射、照射！

　光に気が付いた財前は、なんと伊賀たちへ向けて笑顔で手を振った。
「サイリウムまで出てくるなんて、私のパフォーマンスが認められている証ですわ！　オーッホッホッホ！」
　ますます機嫌が良くなる財前。
　だがそれは勘違いだ。
　本当に台風に打ち勝ちそうな気概で、何曲も歌と踊りをこなしていく彼女を、もう誰も止められない。
「皆さん、名残惜しいですが、次が最後の曲ですわ。ラストもハジけますわよー！」
　まさに今、財前はアイドルだった。
　そして最後の歌も、キラキラした感じのイントロから始まるアイドルPOPソングだ。
「それでは聞いて下さいませ！　『オトメ☆ビィーナス』！」
　イントロが終わり、いよいよカウントとともに唄いだす！

　♪ワン☆　ツー☆　ワンツースリー☆　ハイッ☆

　ガッ！

「アッー！？」

　いきなり横からすっ飛んできた看板に激突した財前は、そのまま吹っ飛ばされた。
　そしてそのままゲリラライブは終了したのだった。
　なお財前は翌日、ゴミ集積場にて無残な姿（笑）で発見されたという。