寝子島に台風がやってきた｜リアクション

寝子島に台風がやってきた

【台風到着前：伝説】

　――寝子島暴風域突入４時間前。
　島中が台風襲来に向けて忙しなく準備をしている。
　そんな中、彼女の存在は一際異様であった。
　彼女の名前は財前華蓮。
　今日、彼女は伝説となる……ッ！

　朝食を摂っている寮生たちが集う食堂に、金の髪をなびかせながら財前が颯爽と登場。
　そして食堂のテレビの前までやってくると、腹の底から声を上げた！
「オーッホッホッホ！　舞台は整ったようですわね！　――――“風”が私を呼んでいますわ！」
　朝からカレーを頬張っていた七夜あおいが、台風接近でテンション高まる串田美弥子が、財前が邪魔するので台風ニュースが見えない野々ののこが、そして食堂に会する全ての寮生の心が１つになった。

「「　朝　か　ら　何　を　言　っ　て　ん　だ　？」」

　ドン引きの食堂。彼女に集まる視線。
　目立つことを至上とする財前にとって、視線が集まることは喜ばしいこと。
　彼女は目立てばそれでいいのだ！
「ねぇねぇ？　華蓮先輩、何をするの？」
　ののこの疑問に、財前が答えた。
「この風、この雨！　舞台効果はバッチリですわ！　私は今日、これから桜花寮の前で単独ライブを開催しますの！　目立ちまくりますわよ！　大自然に打ち勝って、寝子島の美の女神として更なる高みへ参りますの、オーッホッホッホ！」
　キラキラと謎のオーラを放つ財前を、羨望の眼差しではしゃぐののこ。
「すごいすごーい！　私、ここから応援してるね！」
「よろしくてよ、野々さん！　さぁ、私のファンは外に注目ですわよ！　オーッホッホッホ……！」
　高笑いしながら食堂を後にする財前。
　居た堪れない空気だけが残った。
「ねぇ……、止めたほうが良かったかなぁ？」
　七夜が遠ざかる財前の背を見送る。
「いいんじゃない？」
　串田はハムエッグにかぶりついた。
「あ、そうだ。買い出し行かなきゃ。じゃ、七夜さん、またね！」
　串田はいそいそと食器を片付けて、そのまま自室へ戻っていった。
「美弥子ちゃんは相変わらずせっかちだなぁ。私はどうしようかな……？」
　台風ニュースを食い入るように見入っているののこを横目に、七夜は本日の予定を模索し始める。
　と、ちょうどその時、卓上の彼女の携帯電話が鳴り出した。

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