寝子島に台風がやってきた｜リアクション

寝子島に台風がやってきた

【台風到着前：様々な思い】

　星ヶ丘のオレンジ動物病院の院長、ジェレミア・ベルトーニは窓の外の雨音に驚いていた。
「台風は馴染みがないんだ。この雨の勢い、風の強さ、怖いな。朝から庭の鉢植えなども屋内に仕舞って正解だったよ」
　彼は数日前から台風情報をチェックしていた。
　そして来る今日に備え、防災用品や非常時の対策をしっかり立てて来たのだ。
　スタッフと協力し、災用の水・食料・医薬品備蓄はばっちり。非常用電源も確保ずみだ。
「院内が浸水しても、非常用電源は上の方へ移動させておいたから、停電になっても安心だ」
　鎧戸も閉められるところは全部閉めた、と点検する。
　そしてジェレミアはTVの台風情報を再度確認した。
「台風情報は随分詳細なんだね。それに分かりやすいよ」
　報道内容に彼は目を瞬かせながら驚いていた。
　そこへ、豪雨の中、朝からスタッフが駆け付けてくれた。
　ジェレミアはまた驚かされた。
「今日は日本人スタッフさん達、お休みにしたはずだけど……？」
　聞けば、この医院のごく近隣のスタッフらしく、急患対応が心配と急いできたらしい。
　ジェレミアはスタッフの言葉に胸を打たれた。
「台風情報といい、君たちといい、日本人は本当に親切だね。素晴らしい……！」
　彼らの心意気に感謝する若き医院長。
「そういえば、この島の野良猫たち、雨風が凌げる場所にいるのだろうか？　台風は必ず怪我人が出るって聞くし、人間も動物も大丈夫かな……？」
　ジェレミアの優しさは、この島のあらゆる生命に向けられているのだ。

　バニー・オークレイは、星ヶ丘にあるオークレイ牧場の一人娘である。
　小さな牧場といえど、牛（3品種）10頭、羊10頭、馬２頭、ポニー１頭、牧羊犬２頭と動物たちの数はそれなりに多い。
　バニーは台風が来る準備をしているパパとママの手伝いをしていた。
「パパ、タイフーンはどう？　牛小屋の屋根をリペアするの？　間に合いそう？」
　パパが屋根の修理は間に合うと答えると、バニーはホッとした表情を浮かべた。
「ママ、池の奥のふれあい動物コーナーのキッズたちは？　あ、もうカウハウスにうつしてるのね、良かったわ」
　両親２人である程度の準備まで終えていると分かったバニーは、牧場内の見回りを行うことにした。
「じゃ、バニー他を見回ってくるわね。カモンシルバー、ヤー！」
　バニーの掛け声に反応して、愛馬シルバーが彼女の元までやってくる。
　早速シルバーに跨ったバニーは、意気揚々と牧場内へ駆け出していった。
　既に強風域に入っている寝子島、猛烈な雨と風が１人と１頭に吹きかかる。
　勇猛に突き進む愛馬へ、バニーはその頭を撫でながら進んでいく。
「風が強いね。シルバー、お前は怖くない？」
　ぶるるんっとシルバーは鼻を鳴らす。
「偉いわ、シルバー。強いのね。バニーはねー、フフフ、シークレット、ひ・み・つ」
　彼らは牧場内の施設１つ１つを巡り、小屋が破損してないか、母屋に戻っていない動物がいないか目を光らせる。
　と、ここでバニーが何かに気が付いた。
「シルバーストップ」
　彼女は得意の投げ輪で転がっている杭を掴んで引き寄せた。
「どこの杭かしら？　上のペンキのカラーはふれあいコーナーのものね。BUT、ここまで飛んでくるものかしら？　ふれあいコーナー、見に行ってみましょう。ハイヨー、シルバー！」
　彼らは大急ぎでふれあいコーナーへ急行するべくスピードを上げる。
　そろそろ本格的に風と雨が厳しくなってきた。

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