みんなの秘密基地｜リアクション

みんなの秘密基地

　空に星が瞬く頃、穴の近くに置かれた腕時計がアラーム音を発した。
　遠くの方から修が自転車に乗って現れた。
「穴が閉じるぞ。みんな、急いで戻るんだ」
　立ち漕ぎの姿勢で周囲に声を掛ける。目に付いたオリーブには一層の声を張り上げた。
「恋々出、ラジコンで遊んでる場合じゃない！　穴が閉じる前に戻るんだ！」
「心配はご無用なのだよ！！　恋々ちゃんはまじかるぴかれる美少女だから、どんな世界へも溢れる魔力でひとっ飛びなのだよ！！」
　論理的ではない。しかし、説得する時間もない。オリーブの溢れる自信に多少は当てられたのか。信じるからな、と声を残して穴へと急いだ。

「ほしがでてる！　かえらなくっちゃ！」
　探検に夢中になって、かなり遠くまできてしまった。同じような風景が続く中、海美は心細い声を出した。
「あながみつからないよ。どこにあるの？」
　その時、岩壁に小さな穴を見つけた。走っていくと、拳くらいの大きさでとてもは入れそうにない。中に手を突っ込むと行き止まりになっていた。
「あれ、ここじゃなかったっけ？　ほんとのあなは、どこなの……ないの……」
　心の心配を声にした途端、急に怖さが増して海美は泣き始めた。
　前方に赤い光が見えた。緑の光もある。暖かい人の声に海美は駆け出した。
「まおちゃん、まおちゃん！」
　海美は必死で名前を呼んだ。そこにはオリーブもいて手持ち花火を楽しんでいた。
「海美ちゃんも花火するのだ。人が多いと楽しいのだ」
「まおちゃん、あのね。あながないの。まおちゃん、あなはどこ？」
「穴はあるのだ、たぶん帰れるから心配いらないのだ！」
　真央は笑顔で海美に花火を差し出した。気が紛れた様子で、じゃあ、これ！　と元気に指差した。
　冷めた目でオリーブは岩壁を一瞥した。小さくなった穴は三十センチ程の大きさで、小さな子供でも通り抜けることは難しい。
「……どうなりますか」
　二人に聞こえない声でオリーブは呟いた。

　岩壁の終わりに手が届いた。ねむるは片手を伸ばした姿で動けなくなった。
「こ、ここまできて……それは、ないよ……」
　体力が尽きた。片手では全身を引き上げられない。両手を頂上に掛けようとすると、激しい震えが起こって落ちそうになる。数分前に身をもって知った。
　ねむるは岩壁に張り付いた状態で体力の回復を待った。痺れを切らした両脚の震えが止まらない。
「……そろそろ、いけるか？」
　辺りは静かで何の音も聞こえない。規則的な息遣いが唯一の音だった。
　ねむるは絶叫に近い雄叫びを上げる。両手は頂上に届き、四肢が身体を押し上げた。平らな岩の上に肩口から転がって仰向けになる。
「……やっと、頂上だよ……なんか、すごいね……」
　星雲が混ざり合った夜空には独特な眩しさを覚える。ねむるは目元を隠すように腕を乗せた。
　しばらくして起き上がると、ねむるは平たい頂上を奥へと歩いた。やがて辿り着いた先で声を漏らす。
「何だ、この景色は……」
　地上には夜空があった。ねむるは俯せになって、ゆっくりと手を伸ばす。指先が星雲の中の星に触れると。ささやかな波紋が広がった。
「これって水なのか。どれだけ、広いんだよ……」
　天と地にある宇宙の狭間で、ねむるは呆れたような声を出した。そして仰向けに転がった瞬間、世界から忽然と消えた。

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