あなたの縁、結びます｜リアクション

あなたの縁、結びます

・佐藤タカシの場合
　
「……」
　佐藤タカシは、地蔵とにらめっこをしていた。
　いや、別に笑わせようとしているわけじゃない。地蔵が笑うわけはないから。いや仮に笑うのだとしても、地蔵の笑顔なんて別に見たくない。
　九夜山近くにある地蔵には縁結びの力がある。三日前、教室で誰かがそんな話をしているのを聞いた。別に聞こうとして聞いた話じゃなくて、ただ耳に入ってきただけのクラスメイトの会話。
　その地蔵のことはよく知っていた。休日、たまに九夜山周辺を散歩していたから。そういえば最近、地蔵のそばを通る時に以前より人を見かけるようになった気がしていた。
　だからといって、すぐには自分も願ってみようとは思わなかった。別に縁などというものを欲してはいなかったから。
　それでも、次に散歩に出た時、気が向いたら行ってみようかとは思った。そうして今日たまたま気が向いたので、来てみたのだった。
「縁結び……か……」
　地蔵に向かってつぶやく。
　かれこれ十分ほどここに立ち尽くしているけど、特に人目を気にしたりはしなかった。もし誰かに見られたら、あの人は友達が欲しいのかなとか思われるかもしれないけど、そうされても別に恥ずかしいとかは思わないから。
　もし普段から他人との関わりがあれば、恥ずかしいって思ったりするのかもしれない。知り合いに目撃されたら、後でからかわれて恥ずかしい、とか。
　でも自分にはそういう相手がいない。だから、関係ない。
　他人からすれば、きっと自分はいてもいなくても同じような存在なのだと思う。実際、学校や寮でも誰にも話しかけられたりしない。
　それを寂しいとも思っていなかった。一人でいるのは、ちっとも苦じゃない。
「……」
　地蔵を見つめながら、この地蔵は人間以外との縁も結んでくれるんだろうか、とふと思った。もしそれができるなら、願ってみようか。
　だってよく考えてみたら、仲良くするのって人間相手だといろいろ大変そうだ。会うたびに会話しないといけないし、だから……そう、猫とかがいい。もし仲良くなっても、にゃあとだけ言えばいいから。うん、猫がいい。
「猫となかよ……」
　いや、猫相手のお願いなんだから、猫にわかりやすいように頼んだほうがいいだろうか。うん、きっとそのほうがいい。
「……にゃー」
　地蔵に向かって、タカシは猫語を発した。猫語といっても、適当に鳴き真似をしただけだけど。
「にゃあ、にゃあにゃあにゃあ」
　猫と仲良くさせてください、と告げる。

　ガサガサ。

「……？」
　ふと近くで音がした気がして、目をやる。すると、一匹の三毛猫が茂みから出てきたところだった。
「……」
　願いが叶ったのだろうか。すごいな、この地蔵……。
「にゃー」
　猫が小さく鳴き声を上げる。その口には、なぜか紙の束がくわえられていた。チラシのようで、ＮＭＲという文字が見える。
「にゃーにゃー」
　猫が近寄ってきて、口をこちらに向けてきた。チラシを受け取れということだろうか。
「にゃあ……？」
　そのチラシは何、と言ったつもりだった。
「にゃむん」
　とにかく受け取れ、と言われた気がした。なんとなく。
「……にゃあ」
　じゃあもらうよ、と返す。そして、くわえられたチラシに手を伸ばして。
「こ、これは大スクープなのだ！」
　その時、いきなり近くの茂みから誰かが飛び出してきた。

このページにイラストを設定する