ウォータースライディングそうめん＋＋｜リアクション

ウォータースライディングそうめん＋＋

●目指せ、そうめん

「さて、と」
　黒滝竜也は再度リュックサックの中身を確認する。
　ペットボトルに入れた麺つゆ、プラスチックの小さい器、割り箸数本というそうめん用の道具、タオル、水筒、軍手、釣り道具のアウトドア用品。
「全部揃ってるな」
　確認も三度目。漏れはないだろう。しっかりと頷いてから竜也は川の上流に視線を投げた。
　今から彼は川を上る。そうめんは上流のどの辺りから流れてきてるのか。それを確認するためにだ。
　もちろん出所がわかってもそこに陣取って食べたりはしない。純粋な好奇心――男の浪漫というところだ。
「うっし、じゃあ行くか！」
　そう言ったのは探検部部長、龍目豪。彼もまた男の浪漫ゆえに、そうめんの始まりに臨むことを願った。
「あ、っと黒滝、念の為にこれを着といてくれ」
「ああ、ありがとう。龍目」
　そう言って渡したのは探険用のライフジャケット。数はちょうど三人分用意されていた。
「と、旅鴉もな。気をつけろよ。いくら綺麗な水でも落ちたら面倒だぞ」
「……感謝する」
　三人目はふたりの半歩後ろにいる旅鴉月詠だ。普段着と麦わら帽子と画材道具。前のふたりに比べて装備は少ないように見えるが、すべて画材道具の『中』に入っているのだ。彼女のろっこん『絵空事』の力で。もちろんそれを使えばふたり分の荷物もどうとでもなるのだが、そこは男の浪漫を奪ってはならないという配慮である。
「んじゃあさっそく歩き始めようぜ！　トロトロしてると日が暮れちまう！」
　痺れを切らしたように豪は言う。実際痺れを切らしたのだろうが。
「そうだな、歩き始めよう」
「異論はない」
　そうして三人は始まりを目指して歩き出す。

　歩きながら、月詠はふと自分の思考に浸る。
　彼女が川を登るのは単なる好奇心。男ふたりと大きく理由に変わりはないし、流しそうめんを止めようとは思っていない。
　ただ、少しだけ想像するのだ。
『流しそうめん？』
『そうそう！　夏休みだし、思いっきりそれっぽいことしたいじゃん。出来れば派手目に』
『流すってどのレベルで？　コース設計から？』
『……川から流すとかかっこよくない？』
『……素麺の材料て何だっけ？』
『小麦？』
『ふーん』
『乗り気じゃない？』
『とりあえず製麺所にでも行ってみようか』
『へへ、話がわかるね』
『こんにちはー！　そうめん下さい！』
　こんなやりとりがあったのかもしれない、と。神魂云々ではなく、そんな子どもたちのやりとりがあれば……それこそ浪漫ではなかろうか。
（まぁ十中八九、神魂の影響なのだろうが）
　なにに宿っているのかは、見てみなければわからない。
　ならば、その『なに』を知るために月詠は川を上る。

　椿美咲紀は自転車に乗って走る。走る。走る。
　風を切り、轍を残し、川に沿って海を目指した。
　理由はやはりそうめん。
（我が新聞部が発行するＮＭＲで是非とも取り（または撮り)上げなくてはならない事態なのなのです！）
　それからＮＭＲ。実に新聞部一同は精力的であった。それゆえ、新聞部で後日レポートに書き起こす為にも、この不思議現象を動画の記録として残すのだ。
（だってこういう事があった、という動かぬ証拠を残さなくては都市伝説と変わらないじゃないですかぁ！）
　そんなの、駄目！
　というわけで、美咲紀は自転車に乗って走っていた。
　まずは海に出たそうめんがどーなるかを記録するために。