ウォータースライディングそうめん＋＋｜リアクション

ウォータースライディングそうめん＋＋

◯流すよわっしょい！

　霧生穂月と六月一日宮檸檬はフットボールクラブの練習の帰りだった。
「檸檬兄ちゃん、今日は練習付き合ってくれてありがと！」
「おう！」
「でも、すぐに檸檬兄ちゃんよりも強くなってやるんだからな！」と穂月が元気いっぱいだったのはつかの間。
「あー、汗でべとつく……早くシャワー浴びたいしおなか減った……」
　すぐに暑さと空腹で歩くのも嫌になってしまった。檸檬の背中に張り付いて楽をしちゃおうかなという名案が浮かぶが、実行する前に穂月は頭を振る。
（だめだめ。だって檸檬兄ちゃん、相変わらずレモン臭いんだもん）
　レモン食い過ぎだろ。ろっこんという存在をいまひとつ理解していない穂月はそんな風に思う。どうしようかな、いっそ川に飛び込もうかな。そんな考えが頭の隅をよぎったとき、思いがけぬものが目の前を通り過ぎて行く。
「何アレ！？」
　穂月は思わず叫ぶ。
「なんかみんな素麺取って食べてる……！？」
　言ってからちょっと子供っぽかったかなと檸檬を振り返ると、檸檬も驚きを隠せていなかったので、ちょっとだけ安心する。
「このそーめんどっから流れてんだろ……謎現象？」
　これも神魂っていうやつの影響なのかな？
　首を傾げながらふと思う。
「汚くないのかなー？」
　けれどまわりの皆は気にせずに、つるつるするするすすっている。結果。
「でも皆食ってるしいっか！」
　と檸檬は頷いてしまった。
（この島って本当に変なことばかりだ）
　穂月はそう思いながら、けれど空腹には勝てそうになかった。

「へぇ、『ながしそうめん』ですか？」
「左様でございます」
「そうめんは知っていますが、流すってどういうことでしょうか？」
「それは……ご覧になればお分かりいただけるかと……」
「なるほど……そうですね、では行ってみましょう」
　というような成り行きで、久良木優菜も川のほとり――半ばお祭り騒ぎの一角へとやってきた。それぞれ思い思いの方法で――川に足を投げ出して涼みながら食べる、川のほとりで懸命に掴む、あるいは川にダイブして全力で――そうめんを楽しんでいて、優菜はすっかりと感心した。これが、流しそうめんですね、と。
「私も、」
　楽しませていただきましょう。そう思って、屋台っぽいところへ近づこうとすると、見覚えのある醜いシルエットが視界に入り込んだ。
「あら？」
　そのシルエットを、優菜が見間違えるはずもない。
「そうめん喰う前にちゃんと手を洗うんだぜ！」
　彼は、そう。
「あの憎きサンマさんじゃないですか！」
　そう。『あの』寝子サンマなのだ。
「今日もきっと生臭いんですね……可愛さのカケラもないです……」
　誰もが認めるに違いない可愛らしい顔が一変。ゴミを見るような、それこそ買い手がつかず腐ってしまった魚か、捨て置かれた魚の骨を見るような目で、優菜は彼を見つめた。早く誰か処分してくれよ、というような目で。
「そうだ！」
　けれどそれは一瞬。すぐに純真無垢でキラキラとした目と表情を取り戻した。
「そうめんは川で食べるんですよね？　ならついでにそこで洗っちゃいましょう！」
　取り戻した、が。
「食べ物を流せるほどきれいなお水なのですから、そこで洗ったら綺麗になるはずです」
　彼女の純粋な提案は、ちょっと、かなり、危ないものだ。
　サンマさんの運命はいかに。

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