あ　そ　ぼ　？｜リアクション

あ　そ　ぼ　？

　戌井創は驚愕した。
　バスケ部の練習後、更衣室の扉を開けたら見知らぬ廊下に出てしまったからだ。
「新手のろっこん使いか！」
　制服姿でズギャーンッと奇妙なポーズをしたあと、肩を落として溜息１つ。
「……こういうのにも段々慣れてきたよね」
　春から続く神魂事件に、戌井は順応しつつあった。
「こういうときは、『とりあえず武器と防具と折れないこころ』が必要！」
　うん、と力強く頷くと、まずは五感を頼りに情報収集。
「お墓、朽ちた館、周囲の音、血と埃の匂い、あと窓が割れないことから……」
　彼は敵の存在、他の人たちも迷い込んでいる可能性、所持品が一切なくなっていることに気が付く。
「状況はすごく悪いね。まずは武器が必要だけど……」
　目の前の部屋に飛び込んでいった。
「ここは、遊戯室？」
　日暮と呉井が立ち去ったあと、戌井が遅れてやってきたようだ。
　戌井はここでキューを手に入れると真ん中からへし折って二刀流っぽく加工。
　ダーツの矢も３本入手すると、そのうちの１本で自分の制服を裂き始めた。
　そして左腕に巻いて盾代わりにした。
「これでよし！　ん、この匂い……？」
　戌井は鼻をスンスンと利かせて周囲を見渡す。
「なんだろう、この匂い……、お米……？　米びつの匂いがする……」
　その時、戌井の背後をトトトと駆けていく足音が聞こえた。
「何かいる……」
　しかも、人間ではないナニカだ。
　耳を澄ます。
　家具を飛び越える足音。姿は小さい、と戌井は見抜く。
　そして足音が急に消えた。
　戌井は振り返らずにダーツを投擲！
　牽制しながら真横へ転がり込んだ。
　さっきまで立っていた場所には、１本のアイスピックが深々と刺さっていた。
　よく見ると、刺さったアイスピックを引っこ抜く影が存在する。

　――はずれ、はずれ。ダーツ避けたら逃げられちゃった！

　３～４歳くらいの女の子の声だ。
　キャッキャと嬌声上げながら、抜いたアイスピックを小脇に抱えた、体長20cmほどの兎のぬいぐるみが戌井を見遣る。

　――避けちゃダメだよー？

　兎はすぐに物陰に隠れて、素早く動いて戌井の目を霍乱させる。
「逃げたほうが早いだろうけど……」
　戌井はこの場で、兎の行動パターンをつかもうと考えていた。
　故にあえて逃げずに、攻撃を受けるつもりだ。
「どこを狙ってくるか？　武器がアイスピックなら、心臓や眼球なんかの急所を突く必要があるよね」
　だとすれば、と戌井は覚悟を決める。
「そこ以外を刺されても、痛いだけで死ぬことはない！」
　背後から駆け寄ってきた兎に刺突に、戌井は左腕を前に出してガード。
　固く結ばれた布に先端が滑り込むように突き刺さった。
　思ったよりも鋭利なそれは、浅くではあるが彼の左腕に骨まで到達する。
　左腕から全身にかけて痺れるような痛みが走る！
「差してしまえば、引き抜く必要があるよね」
　空いた右腕で戌井は兎の胴体を掴んだ。
「捕まえた。この感触はやっぱりお米だ。んー、赤い糸がお腹に。なにか埋められてる？　電池的なものが入ってるのかな、それともこの中身で動かされてるのかも。そうなるとスタミナ勝負はできないよね……」
　手の中でもがく兎は戌井に隅々まで観察される。
　それをよしとしない兎は一層激しく暴れるが、今度は戌井に両手で抑えられてしまう。
「ダメージを与えたらどうなるかな？」
　兎のぬいぐるみを壁に叩きつけようとした戌井。
　だが、兎は戌井の指に噛み付いたあと、アイスピックを回収して瞬間移動した。
「あ、逃げた。捕まえても消えちゃうのか。正式な撃退の手順があるのかも」
　血が滲む左腕に、更に制服の切れ端を巻き付けたあと、戌井は噛み付かれた指先をしゃぶった。