あ　そ　ぼ　？｜リアクション

あ　そ　ぼ　？

　いち早く２階への階段へ到達したのは、鴇波羽衣だ。
　階段の腐食に気が付いた彼女は、回廊を一周しながら「誰かいませんかー？」と声掛けつつ探索。
　途中、物置にいた面々と遭遇し、情報共有をしていた。
「にしても……遅いなあ、物置のみんな……」
　階段前で落ち合うはずだが、誰１人として来ていない。
　その代わり、志波と負傷している弘明寺が階段前までやってきた。
「わわっ、怪我してる！？　大丈夫？」
　鴇波が驚くと、弘明寺は気丈に背筋を伸ばして「平気よ」とクールに突っぱねた。
「俺が目を離した隙に、包丁持った猫のぬいぐるみに襲われたんだ」
　申し訳なさそうに目を閉じる志波。
「志波さんは悪くないわ。私がどじ踏んだだけ」
　だが弘明寺は首を横に振って否定した。
「とにかく、この館には敵がいるわ。貴方も気を付けて」
「……うん、分かったよ。このことを早くみんなに知らせなきゃ」
　焦る鴇波。そこへ戌井、呉井と日暮、御剣、エヴァ、天満、桜庭、篠崎、屋敷野、黒依と続々と階段前に集合。
　一番重傷の黒依は、志波がリネンを屋敷野が研いだペーパーナイフで切り裂き、改めて応急手当を施した。
「アリーセちゃん、おひさ☆　セブンぶりだな」
「確かにセブン事件以来かしら？　いつも頼りにしてます、志波さん……痛！」
「ごめん！　きつく縛りすぎたか？」
　志波が即席の包帯を固く結ぶ。
　シーツは生地自体が滑らかなゆえ、固く結ぶことに適していない。
　普段よりも固く結ばないと簡単に解けてしまうため、気持ちキツめに行うしかない。
「い、いえ、右腕の痛みも少し楽になりました。ありがとうございます」
　しっかりした手当に、ようやく落ち着きを取り戻す黒依だった。
「黒依、無理するなよ」
　御剣が振り向こうとすると、桜庭がそれを遮った。
「……刀くん？」
　桜庭の目が笑っていない。彼女の右手がゴリゴリと音が鳴る。
　現在、黒依は治療のため、やむなく上半身は下着姿。
　女子が四方を取り囲んでいるとはいえ、治療に当たる志波以外の男子は後ろを向かざるを得なかった。
「すまん、まだ終わってなかったのか！」
　御剣は目をつぶって体を反転させた。
　この間、エヴァは手に入れた手記の件を話す。
「他にも人が居たみたいね。うまく情報を使ってほしいわ」
　塩水が必要、ということがこの場にいる全員に知れ渡ったことになる。
　また、呉井と日暮、桜庭、そして戌井も襲ってきたぬいぐるみの情報を伝え、共有することに。
　このことをメモ帳に書き込み、階段付近に置いておくことで、後から来た人も情報共有できるようにした。
「あたしは物置にいた人たちに、このことを伝えてくるね。ろっこんに必要なリネンももらってくよ」
　鴇波はマントのようにシーツを羽織ると、元気よく回廊を駆けていった。
「階段が腐食してるとなると、この人数が渡ったら危ないよな」
　篠崎が腕を組んだ。
　すると志波がシーツを眺めて呟いた。
「俺、前に動画で見たんだ。海外で、奥さんと浮気相手の部屋に旦那が殴りこんできて、夫婦が喧嘩している間に浮気相手がシーツで作ったロープで逃走するってやつなんだが。あの時は大笑いして見てたんだけどさ」
　幸い、シーツ類は大量に持ち込んできてある。
「それと同じことが出来ないか？　この量なら１階まで届きそうだし」
　一同はしばし考え込んだ。
　怪我人もいるこの状況だが、他に下層へ降りる手段はなさそうだ。
　一同は志波の案に乗ることにした。
　だが、シーツ類は摩擦があまり強いとは言えないし、降りる際には横にぶれまくって相当時間が掛かる。
　それでも、ここで何もしないよりかはマシだと彼らは判断したのだ。
　早速、彼らはシーツをしめ縄の要領でロープ状に細長く捻り、先端同士を何重も絡めて結んでいった。