ひまわりと『向日葵』｜リアクション

ひまわりと『向日葵』

◆
最近は暑いから、何か冷たいものを食べに行きたい。
（かき氷とか、冷やしぜんざいとか良いわよね）
そんな折に、ひまわり畑の近くにお店が出来たらしいと聞いて。
塔尾松生は、ひまわり畑へやってきていた。

「えーっと……お店はあれかな？」
ひまわりの模様ののぼりに書かれた、『向日葵』の文字。
間違いない、あそこだ。
店へ向かおうとして、ふと立ち止まる。
鞄からデジカメを取り出し、ひまわり畑の写真を何枚か。
母さんへの暑中お見舞いにでも、送ろうか。

◆
美味しいと評判を聞いて、甘味処『向日葵』を訪れた日向透。
店に入った所で、近くのテーブル席に松生が居るのに気がついた。
「塔尾さん、こんにちは。同席しても構いませんか？」

「日向さん！？　あ、はい、どうぞ」
まさかばったり会うとは思ってもみなくて、少し動揺してしまう松生。
（うう、油断して寝癖ばっちりなのに）
いや、何時ものことではあるんだけども。心構えというか、なんというか。
それとなく手で抑えつけてはみるけれど、そう簡単にはなおってくれなくて。
（……後でこっそり直しておこうかな）

「塔尾さんは甘いものが好きなんですね」
ちょうど松生と向かい合う格好で、透は微笑む。
「は、はい。日向さんも、甘い物好きなんですか？」
「そうですね、そこまで得意でないんですが。ここには、甘さ控えめの美味しいあんみつがあると聞いて」
小さく笑んで、
「甘味はどちらかといえば、和食のものが好きなんです」
あと、お茶も美味しいと聞いたので――と付け足して、また一つ笑ってみせる。

そうだったんですか、と透の話に松生は相槌を打つ。
予期せぬばったりには驚きこそしたものの、やっぱり偶然でも会えるのは嬉しい。
「でも、なんだか意外です」
「意外、ですか？」
はてと小首を傾げる透。
「えっと、なんとなく高級なお店に行ってるイメージがあったので……」
紳士的な立ち居振る舞いが、そんなイメージを想起させるのだろう。
それを聞いて、透はくすくすと微笑んだ。
「お待たせいたしました。こちらあんみつと、冷やしぜんざいです」
注文した品が運ばれてきた。
松生が冷やしぜんざい、透があんみつ。
どちらもガラスの器に入っていて、とても涼しげだ。
「いただきます」
「い、いただきまーす」
ぜんざいの中に浮かぶ餅を、箸ですくう。
（あんまりパクついたりすると、呆れられるかな……？）
ちらり、と透の方をうかがい見る。
するとたまたま、視線が合った。
「どうしました？」
「い、いえ。な、なんでもないです！」
ちょっと緊張しすぎ、だろうか。
ごまかすように冷やしぜんざいを一口食べると、さわやかな甘さが口の中に広がる。
「あ、美味しい」
自然と顔がほころんだ。

あんみつを口に運ぶと、あんのさっぱりとした甘さが口の中に。
寒天も美味しい。
「これは美味しいですね」
呟き、透は内心で来て正解だったと思う。
お茶も一服して、ほっと一息。
なんというか、非常にさっぱりとした気分。
視線を少し下げれば、松生が美味しそうに冷やしぜんざいを食べている。
そんな彼女に、透は優しく微笑んだ。