ひまわりと『向日葵』｜リアクション

ひまわりと『向日葵』

◆
『向日葵』を出て、別れた後の帰り道。
白のノースリーブに、水玉スカートの少女が一人。
海が適当な木陰に腰掛けて、ひまわり畑をスケッチしていた。
せっかくの景色、記録に残しておきたかったから。
ふと、一人分の影が差す。
視線を上げれば、そこに居るのは刀だった。
『刀くん』
「日も暮れるし、一人で居るのは危ないだろ。スケッチ終わるの、待ってるよ」
こくん、と海は頷く。
『ありがとう』
「今度、宿題にもつきあってもらうしな」
樹の反対側に、静かにもたれかかった。

◆
少し、人助けなんかもしつつ。
ひと通りひまわり畑を楽しんだ美鶴も、そろそろ帰ろうかと歩き出す。
と言っても、そろそろ女の一人歩きも危ない時間。特にこの辺りは、人気もあまり無い方だし。
誰かに声をかけて一緒に、と思い立ち辺りを見回す。
修はさっき別れたし、他に誰か――居た。
ひまわり畑で迷っていた男子――春告が。
「おーい、そこの君ー」
「ん？　……おお、あなたはさっきのひまわり畑の外から誘導してくれた人！」
どうやら、覚えていてくれたらしい。
「私、藤谷美鶴っていうの。良かったら一緒に帰らない？」
「俺は廻春告といいます、さっきはどうも。じゃあそうですね、お世話にもなったので途中まで」
夕暮れの道を、二人は並んで歩き出す。
「そういえばさー、廻くんって寝子高生？」
「そうですよ」
「私、あそこのOGなんだ。最近どう、学校の様子？」
うーん、と春告は頭をかく。
最近の様子と言われても、この春越してきて入学したばかりの人間にはなかなか難しい。
「そうですね……賑やかですよ、はい」
そんなあたりさわりのなさそうな返ししか、思い浮かばない。
まあ、賑やかなのは確かだ。嘘は言ってない。
「そっか、やっぱり賑やかか」
夕暮れ空を見上げ、美鶴は１０年前に思いを馳せる。
あの頃無茶とかやったなあ、と。
今も大体、あんな感じなのだろうか。
そんな他愛のない話を交わしながら、二人は帰路へ。

都会暮らしが長いと、こういう何でもない一日がとても大切に思えるようになる。
何でもない、だけど二度とは来ない大事な毎日。
だから――
（今日もありがとう）
そう、美鶴は心の中でそっと今日を締め括った。

◆
スケッチ中の高台に、カーキーと一緒に戻った修。
同じ木陰に腰掛けて、一枚ハガキにスケッチする。
ハガキのうえに、水彩色鉛筆を走らせる。
カーキーは、そんな主の姿を隣でお座りして見つめている。
ふと、手が止まる。
「……よし、できた」
満足気に頷く。
ハガキの上には、夕焼けのひまわり畑が描き出されていた。

◆
すっかり日も暮れた頃。
家に帰った時子は、小さな包みを取り出した。
入っているのは、ひまわりの形をしたクッキー。
帰りがけに買ってきたものだ。
一口かじると、ほんのりと甘い味が口に広がる。
食べながら、今日のことを思い出す。
ひまわり畑の綺麗な光景。
ひまわりと戯れる鳥さん達。
そして、『向日葵』。

「また、行ってみたいですね……」
もう一口かじって、小さく微笑んだ。

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