ひまわりと『向日葵』｜リアクション

ひまわりと『向日葵』

◆
偶然会ったなぎさと別れ、ひまわり畑をうろつくことしばらく。
「おや、こんなところにお店があったんだね」
お店――『向日葵』を見つけたジェレミアは、一休みするために入ることにした。
中には、丸テーブルと長テーブルがいくつか並んでいる。
カウンターも含めて全て木製で、とても静かで落ち着いた雰囲気だ。
空調がほどよく効いていて、外の暑さや湿度が嘘のよう。
日本の夏の湿度で死にそうになるジェレミアには、とてもありがたい。
効きすぎてむしろ寒い、ということもないし。
「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ」
まだ空いている店内の、カウンター席に腰を降ろす。
少し視線を巡らせれば、店の窓からさっきのひまわり畑が見えた。
「なるほど、この快適な空間からひまわり達を楽しめるのだね」
と納得。
お品書きを手に取りながら、カウンターの向こうに立つ女性に声をかけた。
「あのひまわり畑は貴女が管理しているのかい、素敵なお嬢さん」
高めで結った黒髪ポニーテールに、割烹着。胸元には名札がついており、美々津日向と書かれている。
淑やかな和風美人、といった雰囲気の彼女が答えて言うには、
「あのひまわり畑の管理は、他の方がされていて。時々、私もお手伝いはさせて頂いているんですけどね」
「なるほど、そうだったんだね」
それから、日向はつけたすようにくすりと笑う。
「それにしても、お世辞がお上手なんですね」
ジェレミアも、それにつられて微笑んだ。
「お世辞だなんて。俺は本当のことを言っただけさ」
「本当にお上手で。ご注文は、何になさいますか？」
「そうだね……うーん、どれにしようかな」
お品書きに視線を走らせると、『葛まんじゅう』の文字が目に留まった。
「よし、この葛まんじゅうというのと……そうだね、緑茶もいただこうかな。冷たいので」
「葛まんじゅうと冷たい緑茶ですね、かしこまりました」
手元の紙にさらさらと書きつけ、厨房へ。
待つことしばし、
「お待たせいたしました」
お盆に乗って注文の品が運ばれてくる。
グラスに入った冷たい緑茶と、透明なお皿にのった葛まんじゅう。
「実は、葛饅頭は初体験なんだ。これはどういったものなんだい？」
ぷるぷるした透明な生地が、ジェレミアにはとても不思議に見える。
「葛粉とお砂糖で作った葛で、あんを包んだおまんじゅうなんです。とても滑らかで、さっぱりとした口あたりですよ」
日向の説明を聞いて、ほうと感心の声を漏らす。
「へえ、じゃあ中のこれはあんこなんだね」
菓子楊枝でつつき、生地のぷるぷる感を少々楽しんでから、口へ運ぶ。
その繊細な甘さに、
「日本のドルチェは繊細な甘さが素敵だね。とても美味しいよ」
と思わず笑顔に。
「お口におあいしたようで、何よりです」
カウンターの向こうで、日向も笑う。

帰り際、お団子が持ち帰りできることに気付く。
「ではこの三色団子というのを三本もらえるかな」
お土産も手に入れて、満足気に店を後にした。