ひまわりと『向日葵』｜リアクション

ひまわりと『向日葵』

◆
診療所からのんびりと、途中馴染みのお店によったりしつつ。
大体１８時頃になって、藤谷美鶴がひまわり畑に到着した。
白のTシャツにジーパン姿、それから日差し対策に麦わら帽子という出で立ちだ。
見晴らしの良い高台から、ひまわり畑を見下ろす。
夕焼け色に染まったひまわりは、昼間に青空の下で見るのとは違う光景で。
これもまた、素敵だと美鶴は思う。
馴染みの煙草屋で買ってきたタバコを取り出し、一服。
肺をいっぱいに満たした煙を、細く長く吐き出す。
夕暮れ空に、紫煙が溶けて流れていった。
携帯灰皿に、吸い殻を放り込む。
「そうそう、折角ここまで足伸ばしたんだし……写真の一枚も撮らないと」
携帯のカメラで、夕暮れ時のひまわり畑を写真に収める。
……と、その途中で気付く。
ひまわり畑で、迷っている子が居る？　
男女二人。春告と莉沙である。
あれだけ大きなひまわりに囲まれていると、こういう高台からでもないと迷っている子の姿も確認できないものだ。
「おーい、こっちだよー」
少し大きな声を出して、畑の外へ出られるようにお手伝い。
（こういう場所って、子供の頃はつい探検したくなっちゃうのよね）
心踊ってしまうものなのだ。それがわかるから、自然と美鶴の顔には苦笑が浮かぶ。

「あれ、藤谷さん。どうかしたんですか？」
誘導を続けていると、修がカーキーと一緒にやってきた。
「あ、八神くん。んー、いやね。ひまわり畑で迷ってるっぽい子が居たから、声掛けて誘導をねー」
「ああ……ひまわりがあの大きさですからね。うっかり迷うのも仕方ない」
俺も手伝いましょう、と美鶴の隣に立って声をかける。
カーキーもしばらく二人の様子を眺めていたが、やがて一緒になって吠え始めた。

◆
美鶴と修、そしてカーキーの声に導かれ。
春告と莉沙は、とうとうひまわりダンジョンからの脱出を果たした。
「ありがとう声をかけてくれた人達！」
ちょうど出た地点から美鶴達が見えたので、春告はお礼を叫びつつ両手を振った。
「よかったわー、次は気をつけてねー」
「はーい、気をつけまーす」
さて、と春告は莉沙の方へと向き直る。
「いやー、ホントありがとうな。助かったよ」
「……あっちの人にも言われてたけど、次からは気をつけなさいよね。ったく、世話が焼けるんだから」
「この礼は、今度奢りの形で必ず」
両手を合わせ、春告は深々と頭を下げた。

◆
「あれ？　あそこにいるのは廻さんじゃないですか？」
「そのようですね。お隣の方は、ご友人でしょうか？」
長話も切り上げ『向日葵』を出た優芽と智慧は、たまたま春告と――そのお隣の莉沙の姿を見かけた。
こちらには気付いていない様子だけれど、
「廻さーん」
とりあえず二人は声をかけてみることにした。
きっとこれも、何かの縁というもの。

「あれっ、二人も来てたのか」
春告は振り返り、見知った顔が並んでいるのに驚きの声を上げた。
「こんにちわですっ！　奇遇ですね！」
「どうも、廻さん」
莉沙が春告を横目に見やる。
「……廻の知り合い？」
彼女としては面倒な流れになっているのだが、こうなるとどうしようもない。
「ん、ああ。そうだよ。えーっとこういう時ってどっちから先に」
春告が考えている間に、
「金剛優芽です、はじめまして！」
「燕城寺智慧と申します。どうぞよろしくお願いします」
さくっと二人が自己紹介を済ませた。
心底面倒くさいが、挨拶されたのに無視するわけにもいくまい。
「……雪莉沙」
一応、最低限の自己紹介だけは。
こうして、春告を中心にした縁が一つ繋がった――の、かもしれない。

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