ひまわりと『向日葵』｜リアクション

ひまわりと『向日葵』

◆
『向日葵』からの帰り道。
途中まで送りましょう、と透は松生のエスコートを申し出た。
「す、すいません、ありがとうございます……」
「いえいえ、お気になさらず」
ふわりと柔らかく微笑する透。
そんな彼を見ていると、やっぱり素敵だなと松生は思う。
彼女の兄は、頑固で真面目であまり笑ったりしない。
だからだろう、正反対の透には憧れてしまう。
「見事に満開のひまわりですね」
その言葉に顔を上げれば、行き掛けにも見た一面のひまわりの花。
皆、太陽の方へと向いている。
「そうですね、とっても綺麗です」
その傍をゆっくりと歩きながら、松生はふと考える。
太陽の方を向いて育つひまわりは、自分に少しにているかもしれない。
透に憧れている、自分に。

不意に、透はあることを思い出した。
以前、知人に自分をひまわりと例えられたことを。
金色の髪、笑顔、そして日向という名前。
それらがどこかしら、ひまわりを連想させたらしい。
だけれども。
透には、自分がひまわりと似ているとは到底思えない。
人としての醜い本性を曝け出す時、そして自らや他者に絶望している時。
そんな時に何より安心するような、そんな歪みを抱えた者と、ひまわりのどこが似ているのか。
陽射しとは対照的に、冷めた気持ちを抱えながら。
透は、松生をエスコートしながら歩いて行く。

◆
ひまわり畑へと向かった六は、綺麗だ――と、そう素直に感じた。
ひまわりの色と、ロベルトの鮮やかな髪色が、夏の青い空と白い雲と合っている。
この光景を絵に起こせば、いい一枚が出来上がるだろうか？

しかし一方、そのロベルトの方はと言えば。
（うーん……無表情……）
六の顔をちら見して、内心でため息をつく。
（僕が一方的に話してるとこもあるし、なんか申し訳ないな)
そう、六の無表情と最低限の反応しか返さない無口が合わさって、ロベルトには「六は楽しくないんじゃないか」と思えて仕方がないのだ。
実際にはそんなことはないのだけれど、表現されないとわからないのが人と言うもので。
「東城」
「何？」
「えっと……こんなことを聞くのはなんだけど……」
こんなことを聞くのもどうかとは、思わないではないけれど。
「あんま楽しくなかったかな、ごめん」

その問いは、六にとっては予想外のものだった。
「え？　……あ、いや」
いつも無表情な彼にしては珍しく、ちょっと困った顔をする。
「……誘ってもらえて有り難かった。あんみつも美味かったし」
あんなに美味いもの、初めて食べた。
ひまわり畑も、とても綺麗だった。
なのに――
「その、そんな風に思わせてすまない」
楽しかったのだ。
「楽しかったけど、それをどう表現したらいいのか分からなくて……」

「あ、な、なんだ……よかった！　よかったよ！」
ロベルトの表情が、パッと明るくなる。
どこかホッとしたように、彼は言う。
「……そういうときは笑顔でいいのさ、笑顔で」
すると六は、照れくさそうなぎこちない笑顔を浮かべ、
「……こんな感じ？」
すぐに真顔に戻る。
「も、もうちょっとこう……口角あげたり……」
「え、口角？」
「うん。あとほら、目が笑ってない感じ……？」
「め、目が笑ってない？　えーと、難しいな……」
手で口角を上げてみたりして、試行錯誤。
「こ、こう……？」
ちょっと変な顔になってしまって、ロベルトが笑みをこぼす。

そんなロベルトを見て、六の口元に自然な笑みが浮かぶ。
「あ――それだよ、東城」
その言葉に、ハッとなる。
「ああ……そうか、こうすればいいのか」
これからはもっと、気を使わないと。
……楽しいなら、ちゃんと『楽しい』と表現しないと。
「今日はありがとう」
楽しかったよ、と。
もう一度、六は自然な笑みを浮かべた。