ひまわりと『向日葵』｜リアクション

ひまわりと『向日葵』

◆
風邪ひきのところに迷惑をかけてしまったので、お礼に喫茶店で何かご馳走を。
そんなわけで連絡もとって、あとは合流するばかり。
多少早く着きすぎてしまった雪代伊織は、少しだけひまわり畑を散歩してくることにした。
一歩足を踏み入れれば、３６０度視界いっぱいに広がるひまわり。
頭上には、さんさんと太陽が輝く青空。
そんな夏の風景に、そういえば日本の夏は初体験だったことを思い出す。
病院時代は、自由に外にも出られなかったし。
少しうきうきする心を抑え、ひまわり畑を散歩してまわる。
どのくらい、そうしていただろう。
「……あら？」
はたと気付いて、立ち止まる。
どうやら、迷子になってしまったようだ。
周りは向日葵に囲まれている。
どれも伊織よりずっと背が高くて、外の様子は全然わからない。
「ど、どうしましょう……」
むやみに動き回ると、余計迷子になりそう。
かといって、このままでいるのも。
思わず、若干涙目になってしまう。

◆
「ひまわりでかっ！」
自分よりも一回り以上大きなひまわりに、伊予祐は目を丸くした。
伊織に誘われ、この辺りに出来たというお店に行く予定だったのだけれど。
肝心の彼女が見当たらない。
「おーい、伊織さーん！」
呼んでみても返事は無くて、ふと嫌な予感が胸を掠める。
まさか、ひまわり畑で迷子になって――
「探さなくちゃ！」
ひまわり畑の中へ、飛び込んだ。
２、３メートルはあるひまわりに囲まれた中は、まるで迷路のよう。
（伊織さん、不安に思ってないかな）
暑い中、走って探しまわる。
もし、彼女がどこか遠く行ってしまったら――そう思うと、胸の辺りが苦しくなってくる。
昔もこんなことがあったような気がするけど、今は考えていられない。

◆
ひまわり畑の中に、一人埋まって。
何をするわけでもなく、ただのんびりと。
音海なぎさはぼんやりと、時間を過ごす。
自分よりずっと背丈の高いひまわりに囲まれて、何もせずに過ごすのは。
とっても、気持ちがいい。
手を伸ばして、指先で葉っぱの先にそっと触れる。
小さく、葉が揺れた。
折るといけないから、それ以上触ったり、手に取ることはしないけれど。
――それにしても。
こうも背の高いひまわりに埋まっていると、やっぱりひまわりんのことを思い出す。
改造版のねこっこ☆モンスターから色々飛び出す中で、どさくさにまぎれてとびだしてきたひまわりん。
以前とびだしてきたあの子は、元気だろうか。
（ボクが今持ってるゲームの中にもひまわりんはいるけれど……）
それはやっぱり、普通のドット絵だから。
そんなことを考えながら、もっと奥へ奥へ行こうと。
足は自然と、進んでいく。
「迷子になってみるのも、いいなぁ」
たまには、そういうのも。

◆
立派なひまわりが、たくさん咲いている。
そんな風に聞けば、花好きとしては見に行くのが当然で。
ジェレミア・ベルトーニは、ひまわり畑にやってきていた。
「……おお、こんなに大きく育っているとはね」
予想以上の大きさに、目を丸くして驚きの声を上げる。
想像していたより、一回りも二回りもひまわりは大きくて。
大輪の黄色い花も、
「これは、土壌もとてもいいんだね」
大自然の恵みが豊かな証拠だ。うんうんと一人頷く。
ひまわり達を見上げて、ジェレミアは微笑んだ。
「とても立派に咲いているね、綺麗だね」
それから、畑の中へと足を踏み入れた。
ひまわりに埋もれれば、その香りに包まれて。
息を吸い込めば、胸いっぱいに広がっていく。
ひまわりの花の香りを楽しみながら歩き回っているうち、ふと気づいた。
足元に、種が幾つか落ちている。
すぐ傍にのひまわりを見上げ、
「種を少し、貰って行ってもいいかな」
落ちている種を少しだけ拾い上げ、ハンカチにくるむ。
ハムスター達のおやつにしようか。
あるいは、来年庭先にこの種を植えてみるのもいいかもしれない。

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