ひまわりと『向日葵』｜リアクション

ひまわりと『向日葵』

◆
甘味を食べ終え、檸檬と澄佳散歩がてらにひまわり畑へ向かう。
一面に広がるひまわりの景色。
それは綺麗で、広くて、大きくて。
なんだか圧倒されてしまう。
不意に、澄佳が檸檬の服の裾をそっと掴んだ。
弁解するように、わたわたと。
「あの、迷子さなりそうかなて……」
すると檸檬の歩くペースが、澄佳に合わせて少しゆっくりになる。
「そのまま掴んでくれてていいですからねっ！　俺がリードするんで！」
振り返らずに、檸檬は言う。……恥ずかしくて、振り向けないのだ。
でも、澄佳はそんな彼の声と背中にほっと安心する。
顔は見えなくても、なんだか頼れるから。
だから、一緒にいれば迷子とか、そんな不安もなくなる。
それに、ひまわりがずっと大きいのもあって、こうしていると二人で小さくなって冒険してるみたいでもある。
夕暮れに染まり始めたひまわり畑を、二人きりで冒険。
そう思えば、自然と心はうきうきしてくる。

「このひまわり、どこまでも伸びていきそうっすね！」
ひまわり畑に埋もれながら、檸檬は澄佳の顔をちら見する。
もちろん澄佳からも、檸檬の顔は見えて。
夕日に照らされた顔にどきっとしたけれど、笑顔で。
「ふふ、そうだね。どこまでも、だねっ」
檸檬もそれには、笑顔を返した。
服を掴んだ手に自分の手を伸ばしかけて、結局引っ込める。
ろっこんの力を借りずに手を繋ぐのは、少し勇気がでない。
（俺のへたれめ……）

いつか、ちゃんと想いは伝えなきゃ届かない。
いつまでも、へたれているわけにはいかないのだ。

◆
「はー、美味しかった！　ごちそうさまでした」
ひとしきり食べ終わって、深雪は満足気に息を吐いた。
そして、渚砂が目を輝かせる。
「よし、食べ終わったら早速遊び――」
しかしなんということだろう、外は既に日が傾き始めていた。
「もう夕方になっているだと！？」
お兄さんショックである。
ふあぁ、と深雪が小さくあくびする。
たくさん食べたからだろう、なんだか眠くなってきた。
「……深雪も眠そうだし、今日は帰るか」
残念ではあるけれど、遊ぶのはまた次の機会に。
今日はそのまま、帰ることにした。

あくびを噛み殺しながら歩く深雪の顔を、渚砂は心配そうに覗きこむ。
「おぶってこうか？　大丈夫？」
「大丈夫だって。眠いけど、一人で歩けるし……」
言ってるそばから、道でうとうとし始める。
「いや、ダメだ！　大丈夫じゃないぞ深雪！」
唐突な浮遊感が、深雪を襲う。
渚砂が抱き上げたのだ。
「えっ、ちょ」
高校生もなって抱き上げられるのは、流石にいくらなんでも恥ずかしい。まして道では。
「やめろよ馬鹿！　恥ずかしいだろ！」
渚砂の髪を引っ張る。
主にアホ毛を重点的に。
「イタタタっ！　その髪は引っ張ると痛いから引っ張らないでくれー！！」
「だったらさっさと降ろせ馬鹿！！」
兄弟の叫び声が、夕暮れのひまわり畑に響き渡った。

◆
涼んだ後、ほんの少しひまわり畑に。
「来る時も見たけど、ホントでっかいねー」
自分の倍近い大きさのひまわりを見上げ、毬藻仔は改めて感嘆する。
「こんなに大きいのは、そうそう見られませんよ」
ひまわりを観察する梢の手には、祖父と兄の分のみたらしが入った包み。
「見渡す限りひまわりー！」
突然、毬藻仔が両手を広げて駈け出した。
「あっ、緑野さんちょっと！？　へたに入り込むと迷いますよ！」
３メートル前後のひまわり達だ、毬藻仔の一人や二人くらいは簡単に埋もれてしまう。
「大丈夫だいじょー……あれ？」
言ってるそばから迷っていた。
「ほら言わんこっちゃないですよー！」
梢が毬藻仔の携帯を鳴らし、事なきを得る。
「ごめんねー、ありがとう屋敷野さん」
顔の前で両手を合わせ、ぺこぺこと謝る毬藻仔。
「もー、気をつけてくださいねホント」
唇を尖らせつつも、梢はどこか楽しげだった。